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世界企業パナソニック 90年目の決断 第14回

日本企業は世界でどう戦うべきか?

欧州市場から世界を狙うパナソニックの白物家電事業

2009年01月07日 12時00分更新

文● 大河原克行

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流通改革A・a D・d R・r

 こうした成長の原動力となったのが、2003年度から開始した流通改革だ。

 海外ブランドをパナソニックへと統一した2003年からスタートした流通領域における構造改革では、約1万社の取引先を約5700社へと削減。欧州市場向けに独自に展開した「A・a」(Automatic Availability)、「D・d」(Direct sales, Direct delivery)、「R・r」(Review Retailer)などの施策によって、効率性が高く、販売店と信頼関係を構築したビジネスを推進できる体質へと転換することに成功している。

 では、欧州市場で展開した独自の施策とはどんなものか。

A・aモデルのしくみ

A・aモデルのしくみ

 A・aとは、新製品の発表と前後して、販売店と基準在庫数を合意した上で、週次ごとの販売実績に基づいて、商品在庫の補充が自動的に行なわれる、という仕組みだ。

 これにより、売れ筋商品の欠品率が大幅に下がり、販売機会の損失を回避できるほか、発注に関わる業務工数の削減、在庫日数の削減といったメリットが出る。

 さらに共同開発商品の企画や共同販促などにも着手。パナソニックは、A・aの仕組みを、欧州全土の主要販売店へと拡大することで、欧州における効率的なビジネス基盤を整えることに成功したのだ。

 また、D・dとは、欧州地区の工場から量販店へ商品を直送するもの。さらに、中間の流通業者を経由せずに、工場から直販する仕組みのことを指す。薄型テレビの生産拠点であるチェコの工場から直接販売店に配送する仕組みなどがそれだ。2006年からは、フランクフルト空港に着荷した時点で、商品を量販店ごとに仕分けして直送するAir D・dを実現し、現在では、この仕組みを欧州の主要国空港に広げている。

 これにより、運送費や倉庫費用の削減に加えて、リードタイムを短縮させることができたという。

 さらに、R・rは、成長している量販店との協業を強化することを狙いとしたもので、有力な販売店においては、販売店あたりの販売回転数に重点を置き、これによる増販施策を積極展開する一方、小口の店舗ではEDIやWebでの受発注対応とすることで、販売生産性と利益生産性を重視する体質へと改善した。

 離れた場所で月数台の注文しか出さない販売店と、大量に販売する店舗との支援体制が同じでは効率が悪い。それを改善するための施策ともいえる。さらに、販売生産性と利益生産性については、販社ごとにKPI(キーパフォーマンスインジケータ=業績評価指標)を作成し、この情報を共有する仕組みとしたことで、改善成果を可視化。これも改善を促進することにつながっている。

 一方で、「値通し大量販売」という手法を取り入れ、パナソニック商品の付加価値をきちっと説明できる販売店との連携を強化。年間5万ユーロ以上の取引がある販売店に関しては直接取引をする体制を整えた。

 「欧州地域における広告宣伝費は、2003年に比べて、3.6倍にまで拡大している。構造改革で捻出した原資をプラズマテレビおよびデジタルカメラに集中投資し、ブランド力の浸透とともに、看板商品のシェア拡大につなげている」という。

 事実、先に触れたように、集中投資の対象となっているプラズマテレビおよびデジタルカメラのシェアは、欧州地域では首位となっている。

 こうした成長に向けた基盤を整備した上で、パナソニックは、いよいよ欧州市場で本格的に白物家電事業をスタートすることになるのだ。

 同社では、白物家電として、これまではエアコン、電子レンジ、掃除機を投入してきたが、これに加え、冷蔵庫、洗濯機も投入することになる。

パナソニック 大月均常務取締役

パナソニック 大月均常務取締役

 「欧州では、エコに対する意識が高まっている。エコに先進的な日本でのノウハウを、欧州向けの白物家電商品に生かすことができる強みがある。3月から商品を投入し、2009年後半にはひとつの成果をあげたい」と、大月常務は、欧州における白物家電市場攻略に自信を見せる。

 中国で成功している生活研究所を、今年4月以降、欧州にも開設し、生活に密着した商品づくりも開始する考えだ。

 GP3計画では、海外で1兆円の増販を見込むが、そのうち欧州では、25~30%を担うことになる。

 白物家電に加えて、美容健康関連事業、空調・環境関連事業、パワーツール事業の推進も隠れた柱となるだろう。そして、2008年度通期の業績では、北米市場の売上高を超える見通しだ。

パナソニックの欧州における白物事業展開

パナソニックの欧州における白物事業展開

 また、2010年度から開始する次期中期経営計画では、欧州市場における白物家電の成長が重点課題として含まれるのは確実。すでに、大坪文雄社長もその点には言及している。

 実は、欧州市場への白物家電事業の参入には、欧州での事業拡大とは別に、大きな意味がある。

 それは、世界戦略の足がかりになるという点だ。

 大月常務もそれを認め、次のように説明する。

 「もともと白物家電のビジネスは、地域特性を考慮し、それぞれの国ごとに商品を開発する必要がある。洗濯の仕方の違い、主食の違い、調理方法、気候の違いなどがあるためだ。しかし、欧州で受け入れられた白物家電は、ロシア、中南米をはじめ、欧州以外の地域でも幅広く受けられている傾向がある。つまり、欧州での白物家電の成功は、世界展開の足がかりにもなる」

 パナソニックでは、日本およびアジア向けの白物家電商品で成果を収めている。

 これを欧州地区に本格展開することで、世界のかなりの地域を、同社の白物家電がカバーすることができるようになるのだ。この動きは2010年度以降に顕在化してくるだろう。

 同社では、2008年度から2012年度までの全世界の白物家電事業を、年率20%で成長させ、2012年には約2倍の売り上げ規模に拡大させる考えだ。それに向けて、2010年には欧州地区における白物家電の新工場も稼働させるなど、準備は着々と進んでいる。

 欧州における白物家電ビジネスの成否は、パナソニックの世界戦略の成否にも大きく影響することになるのは確かだ。

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