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林信行が語る「2008年、知っておくべき10のトレンド」(後編)

2008年12月31日 12時30分更新

文● 林信行

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1位:Web 2.0 in your pocket.

 ここ数年、「Web 2.0で世の中が変わる」といったことが、本や雑誌、ウェブページなどで取りざたされていた。しかし、そんな便利なWeb 2.0も、所詮、オフィスか自宅に置かれたパソコンの前にしがみついてようやく恩恵がうけられるものだった。

 中には「ノートパソコンがある」「Netbookがある」と反論する人もいるだろうが、例えばお店ひとつを調べるにしても、わざわざ鞄のチャックを開け、Netbookを取り出し、サスペンドから起きるまで1分間待ち、そのあとにイー・モバイルを装着して、ダイアルアップ──とやっている間に、一緒にいる友達は、近くのお店の人に道を聞いてしまっているはず。

 でも、これがiPhoneのようなデバイスなら、ポケットから取り出して、さっと目的の情報を調べてすぐに行動に結びつけることができる。

 これまでWeb 2.0というと蛍光灯の下や暗い部屋に引きこもって使うもの、というイメージがあったが、iPhoneによってWeb 2.0をリビングや街中、友達との語らいの場、さらにはきれいな景色の中にも持ち出せるようになった。これは小さいようで、非常に大きな変化だ。

 例えば先日、宮崎県にいった際、地元名物であるチキン南蛮の元祖と言われている店に連れて行ってもらった。そこで本当に元祖なのかiPhoneを取り出し「wikipedia チキン南蛮」で検索してみると、あっという間に結果が出てきて、「オグラ」という店はチキン南蛮にタルタルソースを使い始めた元祖で、チキン南蛮そのものの元祖は別の店であることが判明する。

 あるいは訪問先の会社から駅に向かいながら、「Twinkle」というGPS連動型のTwitterクライアントをのぞいてみると半径1km以内で見ず知らずの人が「人身事故で電車が遅れている」という書き込みをしている。それを見ていたおかげで駅で寒い思いをせずに済んだ。

Twinkle

Twinkle

 実はiPhoneやAndroidがもたらす「Web 2.0 in Your Pocket.」の使い方で、最も面白いのがGPSとの連携だ。その楽しみ方は2種類ある。

MemoryTree

MemoryTree

 ひとつは自分が今いる場所、あるいはその周囲について情報が得られるアプリ。先にあげたTwinkleや、自分がいる場所で過去に撮られた写真をキャプチャーできる「MemoryTree」、「今、この周辺でまだ営業中のお店」が調べられる「ホットペッパー」などだ。

 もうひとつは、世界との一体感を感じられるアプリケーションだ。要するに、自分の現在地は関係なく、今、この瞬間、世界中にこれだけ多くの人がいて、同じ時間を共有しているんだと感じさせてくれるソフトになる。例えば「TwitterVision」は、今、この瞬間、Twitterでつぶやいた人とそのツブヤキが、暇なくスクロールしつづける世界地図に表示してくれる。

 今年、筆者が個人的に最高のiPhoneアプリケーションだと思っている「Ocarina」もこの種の一本だ。これはiPhoneを楽器のオカリナに変えてしまうだけでなく、世界地図を表示させて、今、この瞬間、同じアプリケーションを起動している人を光の点で表示、さらには、その生演奏まで聞かせてくれるというもの。

 「世界中にこんなに大勢のiPhoneユーザーがいるんだ」という感動と、世界のどこかにいる見ず知らずの人と何となく心がつながったような感覚が、これまでのIT系のサービスにはなかった人々の心の奥底にまで触れるような深さを感じさせる。

Ocarina

Ocarina

 それでいうとiPhoneを使い始めた大勢の人が「ライフスタイルが大きく変わった」と言っている。

 私もだんだん、パソコンの前に座っている時間が短くなりつつあり、メールも以前ほどは細かく読まなくなった。いつも最寄り駅から自宅までの十分近くを17インチMacBook Proでチャットをしながら歩いていた、というほどのネット中毒者の友人も「iPhoneを使い始めてからMacを持ち歩かないことが増えた」と言う。

 Netbookは、われわれの生活の中に「どっぷりインターネット中毒」の文化を持ち込むものだとしたら、iPhoneやAndroidのような「Web 2.0 in your pocket」のデバイスは、人々の日常に人間性を復活させてくれる存在になるだろう。iPhoneやAndroidならさっとポケットから取り出して必要な情報にアクセスし、用事が終わったらすぐに画面を消して再びポケットに収めて日常に戻れる。

 80年代、90年代のIT革命は、人々を画面の前に貼り付けにして、残業時間を長くし不幸を増やすものだった。iPhoneやAndroidといった「Web 2.0 in your pocket」は、もしかしたら、われわれのワークライフバランスを一気に「ライフ」寄りに戻してくれる新しいIT革命になるのかもしれない。

 これからIT系のサービスを始める人は、iPhoneやAndroidといった「Web 2.0 in your pocket」のデバイスに触れて、自身の会社の儲けだけではなく、そのサービスを使う人や、その家族が幸せになれるためのシナリオを心に思い描いてサービスを設計して欲しい。

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