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『瀬名秀明 ロボット学論集』上梓「これは僕の自伝です」

作家・瀬名秀明とロボット ~攻殻機動隊の世界は実現するか~

2009年01月13日 22時34分更新

文● 矢島詩子、企画報道編集部

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建築家のロボット理解

瀬名 実はね、ちょっと前に、建築系の先生と話をしたときに、おもしろいなと思ったことがあって。その先生はね、僕らが暮らしている部屋やビルがありますが、これらはいろいろなところにいろいろなもの(機能)が付いているんだけれども、それらがクーッと、「内側に内側にめくれて中に入っていって形をとったのが、ロボットと思える」と、そう仰っていて。

 建築物というのは、それ自体は動かず、それぞれに知能が入っている。私たちはその中に入るわけです。けれども、逆にロボットというのは、知能が中に入り込んでいて、私たちはそのキャラクターと話をする。「ロボットとビルは表裏一体な感じがするんだ」ということを建築の先生が仰って、それはなかなか面白いなと思ったんですね。

 だからもし、そういう古い時代のマンションなどが残っていたときに、ロボットだけのね、最先端のものが入ってくるというのは、また現実味のない話だし。建築とロボットの相対性というか、そういうのは今後ひょっとしたらすごく重要になってくるのかなあという気も、ちょっとしました。

櫻井 非常に僕もそう思います。ロボットを想定した建築物もあるだろうと。車はこんなに普及しましたけれども、逆に舗装された道路以外は、ほぼ走れない。それが街の風景を変えていくというか、道路を造っていくわけですよね。

 だから、ロボットが過不足なく稼動できるような環境作りということが、どんどん建築の方で動きが出て、ロボットもそっちに適合していって、僕たちもその空間に合わせて生きていくという……そういうことには、なっていくような気はしますね。

瀬名 考えてみれば攻殻の世界って、義体化の率がみんな様々なわけですよね。義体化されていない子供だっているわけだし。そういう人たちが一緒に暮らさなきゃならない環境というのは、デザイン難しいだろうなと。

櫻井 難しいでしょうねー。

瀬名 ただ、素子たちがね、たとえばテロリストが籠もっているビルの中に突入する場合などに、サイボーグとしての能力、スーパーマン的な能力を発揮するんだけど、割となんていうか普通の軍隊というか、警察がやるような入り方もしていますよね?

櫻井 してますね。ま、アクションは作らないとですね……あはははは。そういう問題もあるんですけれども。サイボーグだと、特に草薙素子は相当重いっていう設定になっているので、映画の「GHOST IN THESHELL/攻殻機動隊」のほうでは、建物の壁を蹴りながら縦に登っていった素子が、屋上に着地したときに、ずぼって天井が抜けるシーンがあるんですけれども。

 やっぱり強度の問題とかあると思うんですよね。人間が暮らしても大丈夫? ロボットが暮らしても大丈夫? サイボーグが暮らしても大丈夫? とかね。

自分で役割を認識して振る舞う家具

自分で役割を認識して振る舞う家具

櫻井 これはパソコンのように見えますけれども、ラックというか本棚のようなもので、家具にAIが組み込まれていて、家具が自分で「今何の家具であるか」を判断するということですね。棚としても使えるし、モニタとしても使えるし、角度や向きによって、いろいろなものになる。いろいろなものになるんだけれども、「何になるか?」というのは、家具のほうがある種判断をして、何かデバイスをかざすと情報を転送したり、棚の時はただの棚になれるというものです。

瀬名 こういうのを、今後攻殻の世界観と融合させていくとしたらどんなことが考えられますか? 

櫻井 これはいつも演出の見栄えとのジレンマで、やりすぎちゃうとあんまり面白くなくなっちゃうんですよね。

 攻殻機動隊をご存じの方だったら、アンドロイドの指がね、バシャッとなってばばばばってなるシーン(端末オペレーターのアンドロイドの指が、幾重にも裂けて細かい指となり、猛烈な速さでキーを打ち始める)があるんですけれども。少し考えてみれば、“キーボード入力”というインターフェイスにこだわる必要はどこにもないんじゃないかと思うんだけれども、あれはそのぅ、かっこいいからっていう。

瀬名 多分気持ちいいと思う。

櫻井 気持ちいいでしょうね。「やってるでー!」っていう。

瀬名 「俺仕事している!」っていう(笑)。

櫻井 「仕事してるぞ!」って(笑)。そういうものとの兼ね合いで、作品の中にユビキタスのようなものを入れると、多分あんまり面白くなくなっちゃうんだろうなって思うんですよ。攻殻のストーリーを作るときにいつも悩むのが、「前回使ったあのシステムとアレの組み合わせで、この事件解決しちゃわない?」っていう。「どう解決できなかったことにしようか」っていうネタがね、実は難しいんですよね。

次ページ「ネット社会の今、作り手が攻殻機動隊にこめたもの」に続く

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