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『瀬名秀明 ロボット学論集』上梓「これは僕の自伝です」

作家・瀬名秀明とロボット ~攻殻機動隊の世界は実現するか~

2009年01月13日 22時34分更新

文● 矢島詩子、企画報道編集部

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 作家の瀬名秀明さんが、研究の集大成と言える『瀬名秀明 ロボット学論集』を上梓した。一人の作家が、どのようにロボットを追ってきたのか?

 この記事の前半では、これまでのロボット研究への思いが詰まった本書についてインタビューを、後半では、今夏、同氏が特任教授を務める東北大学機械系にて行なわれた、脚本家櫻井圭記氏とのセッション『攻殻機動隊の世界は実現するか』の全記録+お2人へのインタビューをお伝えする。

『瀬名秀明 ロボット学論集』

『瀬名秀明 ロボット学論集』(勁草書房 定価3000円+税 ISBN 978-4-326-10185-6

 鉄腕アトムの誕生日は2003年4月7日。もう5年も経つが、現実にアトムはまだいない。

 ドラえもんもガンダムも、いまだにおもちゃやプラモデルでしかない。『機動警察パトレイバー』の舞台は1998年の日本だったが、10年経った今も、98式AVイングラムは実用化されていない。二足歩行で歩くASIMOは期待を抱かせてくれるが、今隣にいるわけではない。

 なかなかロボットが人間の生活に入ってこない現状を思うと、なんとなくガッカリした気持ちになりはしないだろうか。

 また一方で、例えば介護現場にロボットが入り込むようになったとしよう。そんな時、ロボットに介護を任せる、ということに複雑な気持ちになる人も少なからずいるのではないだろうか。

 このような、ロボットに対する複雑な気持ちを作家の瀬名秀明さんは「もやもやした気持ち」と表わす。この気持ちがロボット学研究の出発点でもある。

 瀬名さんは1999年に、編集者からの依頼がきっかけでロボット学の取材を始めた。講演や対談、論考の執筆等を重ね、研究を自身の作品等に生かしながら、2006年には東北大学機械系特任教授(SF機械工学企画担当)に就任している。その途中、日本のロボット学の歴史では節目といえるイベントがいくつもあった。そのひとつが2002年に大阪で開催された、日本ロボット学会20周年記念学術講演会だ。瀬名さんはこの会場でジャーナリストの立花隆氏とともに公演を行なった。『瀬名秀明ロボット学論集』はその講演録から始まる、瀬名さんにとっての6年間の集大成だ。

認知科学やコミュニケーション論からロボットを考えてきた

瀬名秀明氏写真01

ほとんど僕の自伝だと思います

 『瀬名秀明ロボット学論集』は528ページというボリューム。瀬名さんは「これはロボットの本なんですけれども、ほとんど僕の自伝だと思います」と言い切る。

 「2002年から2008年までの間、ロボット研究がどう変わり、研究者達が何を目指すようになったかという変遷が、僕の6年間の人生とシンクロした記録なんです」

 瀬名さんはロボットを研究するにあたって、認知科学やコミュニケーション論、小説とサイエンスとの関係など、さまざまな方向からアプローチしている。その思考の広さ、柔軟さには圧倒される。

 どれもこれも、前述した通り、瀬名さんのロボットへの「もやもやとした気持ち」を探るためのもの。

 瀬名さんはこの「もやもやした気持ち」は、誰もが感じているはずと考えているという。

「日本人は基本的にみんな、ロボットが好きだと思うんです。ロボットは大嫌いという日本人はあまりいないはずで、そういう人たちはもう、ロボットと一緒に暮らす社会を当然のように求めているわけですよね。そして、こんなにロボットが盛り上がってるし、いろんなところで展覧会をやってるのに、自分達の生活の中には全然ロボットが入ってこないじゃないかということも感じているはず。でも、誰も言わない。空気が読めないと思われるかもしれないから、言わないだけかもしれない。だけど、そういう気持ちは多くの人が持っている。この、もやもやした気持ちがロボット学の本質なのではないかと思います。僕はこのことを繰り返し言ってきたつもりで、この本の中でもそういう考えが全体のトーンとしてあります」

 本書では、それぞれまったく立場の違う3人との対談も収録されている。対談相手は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』等を代表作とする脚本家の櫻井圭記氏(本記事後半に、東北大学における瀬名氏とのセッションを収録しています)、新本格ミステリ作家の法月綸太郎氏、そしてブックデザイナーの鈴木一誌氏だ。

 「櫻井さんとの対談では『イノセンス』を題材に、哲学からロボット工学のことまで、うまく語れたなと思ってます。アニメから工学とか哲学、情報といったことを考えたいという方にはいろんなことを感じていただけるんじゃないかと思います。それから、法月綸太郎さんとこの対談をした時というのは、本格ミステリーと科学がどう付き合っていくか、ミステリー作家の人たちが切実な問題として考えていた時期なんですよ。小説やミステリーと、サイエンスがどうつきあっていくか、ミステリー小説を読んでいる方にとってはアクチュアルな問題意識が入っていると思います」

 そして6章、デザイナーの鈴木一誌氏との対談も、新しい視点を見せてくれそうだ。

「鈴木さんはロボットをデザインするということがどんなことなのかということを広く語っています。

例えば、もし今後ASIMOと生活をともにするなら、ASIMOの重さというものを、ロボットデザインの人は“重くない50kg”としてデザインしなきゃいけないわけです。

重いってことは恐いですよね。そういう意味でもロボットのデザインというのは大切なことなんじゃないかという話をしているわけです。普通には語られていないことが語られていると自分では思っているので、ロボットを作っていきたいと考えている人はいくらかのヒントになるような話は少しは入っているかもしれません」。

次ページ「ロボット研究3つの視点」に続く

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