大量のモックアップによって確認された
120mmという奥行き
この「試す」という行為の結果が、伊藤氏の並べた大量のモックアップである。
このようにたくさんのモックアップが作れるようになったのは、VAIOの開発部隊に「新兵器」が導入されたからだ。CADのデータにあわせ、黒いジェル状の樹脂を噴出して形を作る「3Dプリンター」である。
その場で正確なモックアップができることから、携帯電話や模型作成の分野では、「ラピッドプロトタイプ」などと呼ばれ、定着し始めた開発手法である。ソニーでPCのデザインにこれを使えるようになったのは最近のことで、実際に多くのモック試作を行なってデザイン検証を行なったのは、VAIO type Pが「ほぼ最初の採用例」(伊藤氏)なのだとか。
鈴木「他の機種では、バッテリーを後ろにもってくる『シリンダーフォルム』を採用していますが、この機種では奥行きを120mmにするために、採用していません。バッテリーは平面型のリチウムポリマー電池が、本体底面に付く形となっています。厚みの大きなLバッテリーをつけても、デザインが崩れにくいというメリットもあります」
『タッチパッドでなくスティックにしているのも、同じ理由です。パッドだと(奥行きが伸びて)コンセプトが崩れてしまう」
市場では、タッチパッドでない機種は、特にPCに詳しくない層に対してマイナスに働く、というのが通例で、スティック採用は冒険である。とはいえ、個人的にはむしろ、「スティックである」ことが付加価値だと感じるくらいで、読者の方ならば「ウェルカム」という人も少なくないと思うのだが、いかがだろうか?
デザインの中でも、「色」はtype Pでこだわった点のひとつと伊藤氏は話す。
伊藤「コンセプトは鉱物や宝石の色合い。塗料にガラスフレークを入れ、微妙な光沢を出しています。狙ったのは『一目惚れするような美しさ』です。一目惚れしてもらえないようでは、価格差には納得していただけないでしょう。ちょっとしたことですが、メモリーカードスロットのダミーカードの色も、本体色に合わせています。
鈴木「ワイヤレスWANを内蔵しないモデルの場合、SIMカードカバーの色まで、本体色と合わせています。バッテリーで隠れてしまうので、普段は見えないんですけれど」
すでに述べたように、type PはいわゆるNetbookとして商品企画されたものではない。価格は構成によって異なるが、最安値の構成でも8万円弱、中心価格帯は10万円程度。Netbookに比べると倍近い値段になる。小ささ/軽さに加えて、美しさの点でも差別化できないとダメだということは、開発チームにとって至上命題だったようだ。実際、一般的なパーツで作られることの多いNetbookと違い、ディスプレーパネルからキーボードまで、ほとんどが「特注パーツ」で構成されるtype Pの場合、この価格でもコスト的にはかなり厳しいようだ。
鈴木「当初の開発段階では、もうワンランク高い価格を想定して開発していたのは事実です」
伊藤「正直に言えば、Netbookのブームがなければ、『もう少し高い値段で売りたかった』というのが本音です。市場の要求にあわせた価格にさせていただきました。
ソニーには申し訳ないが、この価格でこのクオリティーの製品が手に入ることになったのだから、「競争バンザイ」と言わせてもらいたい気持ちだ。
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