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松村太郎の「ケータイが語る、ミクロな魅力」 第52回

「産経新聞 iPhone版」に見る新聞の未来

2008年12月19日 20時00分更新

文● 松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

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ターゲットが明確になる初めての新聞

 近藤氏たちが所属する、産経デジタルは、NetViewを始めとして、MSNと協業する産経ニュース、メディアの新しい形を模索するチーム・ラボと協業したizaなど、産経新聞に関連するネット向けのサービスをとりまとめている存在だ。

 ニュースのヘッドラインと記事をウェブで読んでもらう場はこれまでも提供してきたが、紙の新聞というメディアが持つよさをいかにデジタルに展開するか、という取り組みの中で、ケータイ端末も視野に入れていた。実は2002年、Palm OSの環境向けに新聞記事を提供したこともあったという。そこで出会ったのがiPhoneだったと言う。

かつて行なっていた「モバイル産経」のPDAbook版。記事を縦書きで読めるサービスだった

 「新聞を読まない若い人に入り込みたい、と思っていました。メディアは、他メディアやコンテンツとの時間の奪い合いです。新聞を紙で売り込むより、ケータイで展開した方が明らかに早い。これまでも普通のケータイに展開してきましたが、それほど使いやすいとは言えなかった。一方、iPhoneはインターフェースが素晴らしい端末です。無線LANも搭載しており、大きなデータを提供しても短時間でダウンロードができる。ふとした数分間で何気なく見てもらえるデジタル新聞ができました」(近藤氏)

 NetView向けに記事を画像化する過程で、iPhone向けのデータも同時に作ることができる。そのため、iPhone用の新聞のデータ開発は新しい投資の必要がほとんどなかった。ちょうどNetViewのiPhone版という位置付けにあたるわけだ。

産経デジタルの土井氏。産経デジタルは動画サービスや報道写真を複数枚見られるサービスなど過去に様々なトライアルを実践しており、その経験から最適なものiPhoneに選択していく

 「NetViewには、紙と同じ感覚で切り抜きを作ったり、印刷することも可能です。完全に紙の使い勝手をデジタルで再現し、デジタルのメリットであるアーカイブの使いやすさも付加してます。今回は搭載していませんが、iPhoneアプリ版に写真のスライドショーや動画、ウェブのリンク機能などを実装することも可能です」(土井氏)

 今回、シンプルに新聞ビューワーとしての機能に特化したアプリは、App Storeの無料アプリのランキングで1位になった。金曜日の午前中にApp Storeにリリースされ、週末にたくさんのダウンロードがなされたそうだ。ちょうど次の月曜日は新聞の休刊日だったが、火曜日以降はアプリをダウンロードした総数の1/3が毎日読みに来ている。

 「朝5時にその日の朝刊がアップされ、更新のアクセスが上がり始めます。そして7時~8時がピークになってきます。iPhoneは今現在、情報感度の高い、比較的若めユーザーが使っています。彼らが朝の通勤時間にダウンロードして記事を読んでくれていることが想定されます。実は新聞は今まで読者のターゲットを想定してサービスを行なってこなかったので、初めての経験ですね。彼らがデジタル新聞をどう受け止めてくれるのか、ぜひ意見を頂きたい」(近藤氏)

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