EM-WINが事業拡大の原動力
パナソニックでは、これらのターゲットに向けて、V商品と呼ぶ高付加価値商品に加え、「EM(エマージングマーケット)―WIN」と呼ばれる新興国市場向けの商品企画を新たにスタート。BRICs+V向け戦略商品として事業拡大の原動力とする。
「EM-WINは、現地の独自規格や仕様に対応し、言語、技術仕様、社会的要請といった点で、それぞれの地域のライフスタイルに密着した新たな提案を行なえる商品。また、現地視点での優れたデザイン、価値が評価される適正な価格を実現したものになる」(大月常務取締役)と位置づける。
EM-WIN商品としては、すでに、中国、インド、ベトナムの市場特性を考慮した電子レンジ、エアコン、洗濯機、CRTテレビ、コードレス電話、ドライヤーなどを投入。「日本や欧米といった先進国市場での売り上げを牽引してきたV商品は、高付加価値商品として、新興国市場の富裕層にも受け入れられているが、EM-WINはネクストリッチ層を狙った商品であり、新興国市場で『勝てる特徴を持った商品』と位置づけている」とする。
アジア向けには、堅牢性を前面に打ち出し、デザイン性と高洗浄力を実現した洗濯機を投入。インド向けには、インドの省エネ基準に合致したエアコンを商品化した。ベトナム向けには家電市場の成長を捉え、同国初となるビッグ&クリーンを標榜した冷蔵庫を投入している。
「新興国市場における当社のビジネスは、揺籃期から具体的推進期に入ってきたといえ、そのなかで、EM-WINは重要な役割を担う」と大月常務は語る。
そして、新興国市場でのドライブを下支えするのが、モノづくりイノベーション本部に設置されたグローバルマーケティング部会だ。
同部会では、これまでの富裕層戦略によって培った「憧れのブランド」としてのイメージを生かし、ネクストリッチ層攻略のための具体的な施策を立案。さらに、V商品およびEM-WIN商品といった戦略商品を推進するとともに、事業ドメインの改革や、各国における流通体制の継続的な改革も行っている。
だが、新興国市場を対象にしたEM-WIN商品の構成比はまだ4%前後。2008年度は、49モデルを投入したが、約200億円の貢献に留まる。主に先進国がターゲットとなるV商品が、海外市場だけで、2008年度に8500億円の売り上げを計上していることに比べると、その貢献度の差は歴然だ。
つまり、EM-WIN商品の構成比の拡大が、パナソニックの新興国市場での成功、ひいては海外事業の成長力を左右することになろう。
大坪社長は、「当社の海外事業を俯瞰すると、BRICs+Vにおける経営への影響は、まだいくばくかしかない。また、コンペティターであるサムスンやソニーに比べると、伸び率が抜きんでているわけではない。技術レベルでのポテンシャルは大いに自信を持っており、そして、持てる技術を、いかに消費者目線で、商品に置き換えるか、消費者目線で提供しているか、という点では、コンペティターよりも一日の長があると確信している。だが、課題といえるのは、マネジメントのスピード、アグレッシブさである。必要な時にリスクを越えて、行動ができるかどうか、ここに課題があると認識している」と語る。
新興国市場での成長が、パナソニックにとって、グローバルエクセレンスの脱皮に向けたバロメータのひとつになるのは明らかだ。
次ページ「グローバルエクセレンスへの試金石」に続く
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