厚生労働省は、来年4月に施行される予定の薬事法の改正にともなう省令で、薬のネット販売を原則禁止する方針だ。これに対して楽天やYahoo!ショッピングで、規制反対の署名運動が始まった。それによれば、今度の規制で「風邪薬、胃腸薬、育毛剤、痔の薬、妊娠検査薬がインターネットで購入できなくなる」という。
何のためのネット規制か
まず不可解なのは、何のために規制するのかということだ。厚労省の説明によれば、改正薬事法では一般用医薬品をリスクによって3つに分類し、1類と2類については対面販売による説明を義務づける。このうちネット販売を認めるのは、ビタミン剤などの3類だけにする予定だ。3類は全体の3割程度で、便秘薬や水虫の薬も2類になる。
もっともリスクが高いとされる1類には、胃腸薬「ガスター10」が含まれている。私もガスターは買ったことがあるが、薬局で説明を受けたことはない。用法は箱に書いてあるので、それを守って飲むだけのことだ。薬剤師も、それ以外の説明はしようがないだろう。第2類はコンビニ(薬剤師がいない)でも販売を許すのに、薬剤師のいるウェブサイトからのネット販売が禁止されるのは矛盾していないか。
説明が必要なら、買う前に画面表示を義務づければいいし、質問が必要ならネット上で質問するシステムにすればいい。そういう「問診票」の出るサイトもある。対面販売でも嘘をつく人もいるし、説明を無視する人もいる。ネットで買うのと違いはない。むしろネット販売なら個々の消費者の履歴を管理できるなど、安全性を高めることも可能だ。
ネット販売の禁止はリスクを高める
規制すると、何が起こるだろうか。高齢者や障害者、あるいは不便な土地に住んでいる人は、薬を買いにくくなるだろう。それでもどうしても必要な人は、海外のサイトから個人輸入できる。たとえば日本で売っていない睡眠薬なども、Amazon.comなどで買うことができる。こっちは質問も説明もなく、事故が起きても対応しようがない。
つまりネット販売を規制すると、もっとリスクの高い海外からのネット購入に消費者を誘導する可能性がある。もっとも、これは厚労省にとっては痛くもかゆくもないだろう。彼らの恐れているのは、薬害事故の責任を追及されることだから、自分たちの所管していない海外の薬で事故が起きても、責任を逃れることができる。
この連載の記事
-
最終回
トピックス
日本のITはなぜ終わったのか -
第144回
トピックス
電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ -
第143回
トピックス
グーグルを動かしたスマートフォンの「特許バブル」 -
第142回
トピックス
アナログ放送終了はテレビの終わりの始まり -
第141回
トピックス
ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ -
第140回
トピックス
ビル・ゲイツのねらう原子力のイノベーション -
第139回
トピックス
電力産業は「第二のブロードバンド」になるか -
第138回
トピックス
原発事故で迷走する政府の情報管理 -
第137回
トピックス
大震災でわかった旧メディアと新メディアの使い道 -
第136回
トピックス
拝啓 NHK会長様 -
第135回
トピックス
新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む - この連載の一覧へ