パナソニックが推進する、“隠れた”リンク
一方、もうひとつの隠れたリンクもある。それは、技術の共通化である。ジャンルが異なり、個別に開発していた商品を、技術のベース部分で連動させることにより、固定費を効率化するという取り組みだ。
すでに、パナソニックでは、薄型テレビ「VIERA」のハイビジョンプラットフォームをベースにした場合、DVDレコーダーのDIGAへのソフト流用率は79%、地デジ車載テレビでは90%、ハイビジョンムービーは53%に達しており、今後、さらに横方向に広げていくことになる。
共通化することは、コスト低減、技術採用の迅速性にもつながり、最終商品の競争力の強化に直結することになる。実際、DIGAでは、セットの開発リードタイムを3分の1に短縮したという。
パナソニックは、薄型テレビ事業の生き残りの最低条件として、2008年度実績で、年間1000万台の生産規模に到達することを目標にしている。
サムスンが2000万台以上、ソニーが1700万台、シャープが1100万台というように、主要各社の薄型テレビの出荷計画は、いずれも1000万台を突破する計画となっている。
そして、パナソニックも2008年度の薄型テレビの年間出荷計画は、当初の1100万台から、11月27日時点で、「計画を若干下回る可能性がある。だが、1000万台を切ることはない」(上野山実取締役)と、事実上の下方修正を発表したものの、最低でも1000万台の突破を目標とする姿勢は変えていない。
「薄型テレビ事業は、ビジネスを継続的に行なう上で、1000万台が最低のベースになる。最終的に世界で戦えるのは3~4社。そこに入っていかなくてはならない」と坂本AVC社社長は語る。
量販店では、主要なメーカーの商品を展示しなくては売り場が作れない。しかし、言い方を変えれば、主要な3~4社の商品を並べれば売り場が構成できるともいえ、5番目、6番目のメーカーとなれば、量販店の展示場所を確保しにくくなり、さらにシェアを落とす「負のサイクル」に陥りかねない。だからこそ、生き残りに向けたバロメータが、存在感を発揮できる、2008年度の年間1000万台出荷ということになる。
薄型テレビ市場は、地上アナログ放送が、2009年2月には米国で、2011年には日本でぞれぞれの停波することで、デジタル化への移行が促進され、中長期的には旺盛な需要が期待されている。また新興国における旺盛な需要も見逃せない
だが、短期的には、昨今の経済環境の悪化や、個人消費の抑制などによって厳しい環境になるのは、誰もが持つ共通認識。2008年の薄型テレビの市場規模は全世界1億台になると見られていたが、これの1割減の規模に留まるというのが業界関係者に共通した見方だ。
こうした厳しい環境変化は、各社の体制の見直しを余儀なくされるものとなっている。
パナソニックもその点では同じだ。
坂本AVC社社長の次のように語る。
「厳しい環境は、体質を強化するチャンスもといえる。AVC社では、2008年度初めから、世界最適地生産への取り組みを、もう一度、深堀りをしている。これは、むしろ、世界最適地調達と言った方がいいかもしれないもの。現在、薄型テレビ以外を含めて、AVC社では、世界14カ国に、34拠点を設置している。現地で可能な限り、現地調達、現地生産を進め、これを生産における付加価値につなげていく」。
裏を返せば、この10年間に渡り通用してきた体制が、ここにきて通じなくなり、その改革に乗り出したともいえる。
「人件費や技術力、協力会社のインフラ、市場の可能性も大きく変化してきた。グローバルな観点で俯瞰した場合、なぜ、いまここで現地調達をしているのか、という部分も見えてきた。世の中がどんどん動き、それに伴って、新たな課題が次々と出てきている。世界で一番最適な場所から部品を調達、生産し、市場に供給する活動を徹底していくことが、我々の必須課題になっている」。
茨木のプラズマ第2工場での生産を終了し、プラズマパネル生産を尼崎工場に集約。 さらにアジア地域に供給するために液晶パネルモジュールの生産をマレーシアで 開始するといった構造改革も行なった。
「この1年間で、これまでの体制を1割以上は変えたことになる。だが、もっと変えていく必要がある」と、坂本AVC社社長は語る。
また、2009年度の稼働を予定している尼崎第5工場、2009年1月稼働予定のIPSアルファの姫路工場については、どちらも一気に稼働させるのではなく、第1期から第3期にわけて段階的に稼働させ、しかも、第1期の内容を計画通りにすべて遂行するのではなく、必要な部分から稼働させるという方針へと姿勢を転向した。
経過次第では内部的に発表していた、当初計画に比べて少ない台数規模で生産を開始することにもありうる。
パナソニックでは、同社が将来目指すグローバルエクセレンスの条件として、海外売上高6割を目指している。
海外事業比率が、すでに76%に到達しているAVC社は、パナソニックのグローバル事業拡大のお手本的役割を担うのは明らかだ。
実際、パナソニックの大坪社長も、AVC社の成功事例をパナソニック全社に横展開し、「濃い平準化」を推進する姿勢を見せている。
「ポストGP3の最終年度には、8割が海外事業比率になるはず」(坂本AVC社社長)とするAVC社の事業フォーメーションは、まさにパナソニックのグローバル化をドライブするものになる。その点でも、現在取り組む構造改革は、将来グローバルパソナニックの体制づくりの見本ともなる。
では、AVCネットワークス社にとって、2009年は、どんな言葉があてはまるのか。
「薄型テレビを核に、AVC社の市販ビジネスの基本になる要件が揃う年」と坂本AVC社社長は位置づける。
「新たな工場を順次稼働させることで生産能力を整えるだけでなく、Neo-PDPといった新パネル、150インチに代表される大画面化、壁掛け提案を実現する超薄型といったように、この1年をかけて発信してきたものが現実的なものとなり、将来の成長に向けた地盤を整えることができるだろう」。
AVC社の成長が、パナソニックの全体の成長を牽引するエンジンであるのは間違いない。このエンジンが、どんな成長曲線を描くのか、また、今後は、どんな体質へと構造改革に図るのか、そして、どんな魅力的な商品が創出されるのか――。パナソニックの将来を占う重要な指針であることは、これからも変わらない。
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