宮本武蔵のレース戦略
桜子 不思議なのは、そのマイナス思考なんですけど。本当にそう思っているんですか?
新田 思っています。例えば柔道の石井 慧選手とか、発言が超強気じゃないですか。まったく、そういう風に自分はなれない。どういう思考回路だったら、ああいう発言ができるんだろうと思う。
桜子 不思議だなあ。そんなに弱気なのに勝ってしまうものなんですか?
新田 僕は宮本武蔵派なんだと思う。色んな人から言われて気づいたんですよ。
桜子 策略家!?
新田 そういうつもりは特にないんですけどね。例えば他の選手が「俺、今回イケるよ、勝てる!」って自信満々のことってあるじゃない。それを見ると“俺、そこまで言えないなあ”“よく言えるよなあ”と思う。でも“こうやったら勝てるかもね”というのは常に持っているんですよ。でも、そこは自分の作戦だから発言しない。よくマスコミの取材で「今日の作戦は?」と聞かれるんだけど、「作戦なんて無いですよ」って答えたり。というか、作戦を言えるわけないじゃないですか(笑)。ただ、うちのチームメンバーはそのことはよくわかってくれています。
桜子 なるほど!
新田 その辺は超秘密主義です(笑)。
駆け上るレース界で求めているもの
レーサーはハイスピードで走る以上、場合によっては死だって有り得る。そんな世界にここまで賭けてきた理由はなんだろう。
新田 初めから賞金が目当てじゃない。やっぱりこの世界で一番になったり、記録を作るといったこと……。僕が子供の頃からレースを始めるまで何一つやり遂げられたことがなかったから。
桜子 でもレーサーって誰もがなれる職業じゃないし、スポンサーもいるし、むしろ選ばれた人間だ、ぐらいに思ったっていいくらいじゃないですか?
新田 ただこれまでのレースではそれは成し遂げられていないと思っています。だから、自分が生きていく人生の中でひとつ、なんでもいいからやり遂げたものを作りたい。ずっと、人生をかけて成し遂げたというものがなかったので、それをしたいなと。
桜子 ちなみに、それはどこまでいったら成し遂げた、と言えるのですか?
新田 それがわかんない。もしかしたらレースじゃなくて、後輩を育てるということなのかもしれないし。
実は私も似たようなことを最近感じていた。自分の生き方に不安が残る。自分は毎日を精一杯生きているだろうか。振り返るといつも自分は今の自分に自信がない。もっと勉強して、もっと賢くなる、そういう生き方を、振り返るといつも求めている。人として、これはあまりよくない考え方のような気がするが。
新田 同じだと思います。満足してないんですよね。でも、満足ってなんだろう? って。達成感みたいなものがこの先にどこかであると思うんですよね。もしかしたらそれが引退のときかもしれない。
先を見て走り続けている新田守男氏。私の眼には、十分何かを成して、人に感動を与え、勇気づけている人物だ。おおむね人は自分ではその人が誰かに与えている影響だとか光具合には気づかない。こんなことを言ったら怒られそうだが、この先、新田氏が何かを成そうと成すまいと、いつも元気で笑っているお姿が見られるなら、私はそれだけでうれしいなと感じた。
新田守男(にった もりお/Morio Nitta)氏のプロフィール
1967年千葉県出身。RH-B型。身長173cm/体重62kg 靴26.5cm。趣味はゴルフ。SUPER GTの前身、全日本GT選手権のGT300クラスで1996年、1999年、2002年の3回、ドライバーズチャンピオンに輝く。
桜子(Sakurako/Cherry)のプロフィール
Interviewer&blogger 広告代理店・IT系企業を経て通信会社に勤務。5年前に「桜子の部屋・お友達の輪」というビジネスリーダーズインタビューを単独で開始。2007年シリコンバレーで活躍する日本人を取材に行く。日本人・外国人を含めた約50名ほどのインタビューを過去に実施。(http://sakurako.cc/)
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