レーサーという夢を持ち続けて
アマチュアが集まったレース(富士フレッシュマンレース)で勝ったからといってプロになれるわけじゃない。この時、見てくれていたトムスから、シートが空いた車に乗れることになり、個人で費用を出さなくても済むようになったという。
桜子 ほっとしましたか?
新田 そうはいっても、お金がどこかから出ているのに変わりはない。成績を求められるような重みで苦しいという中、若さでガムシャラにやりました。
プロドライバーになって約20年。8年くらい前の一時期、日常生活で気づかないうちに車の音真似をしてイメージトレーニングをしていたり、不眠症で苦しんだ時期もあったという。今日まで新田氏を支えてきたものは何だったのか。問うと、夢だと新田氏は静かに語り始めた。
新田 夢について、すごい! と僕が思うのは、1日1日の暮らしの中で、夢がどんどん変わっていっちゃうということ。僕の場合、見たことのないものは夢にもならないという部分がある。レース界に入って、プロの世界を垣間見ているときに、先輩達がやっている姿を見て、それをどんどん夢にしていくんですよね。そばで見ていて、ああレースってこんな世界なんだと気づかされた。
ただ、自分が最初に思い描いていたレースの世界と、実際に入ってから知ったのでは違うこともあったのだという。
新田 僕は多分、人付き合いが苦手で、人見知りが激しいんです。レースって自分ひとりで運転するから、自分ひとりで完結すると思っていたのに、いざ先輩を見たら、これは自分ひとりの世界じゃないんだな! と。そのときに一回「俺、この道を間違えたかも」と思いました。やっていけないんじゃないかって。
桜子 引き返さなかったのは?
新田 周りが考える時間を与えさせなかったというのか。プロの世界にステップアップしていくのにオーディションみたいなものがあるんですよ。そこで一番速かったヤツを使うからな、と言われるワケですよ。
桜子 興奮しますね!
新田 いやあ、だけど、周りはみんな先輩なんですよ……。
桜子 そんなの、車に乗ったら関係ないですよね!
新田 だけど、そこで僕、マイナス思考だから(勝てると思わなかった)。
桜子 謙虚だなあ~。実力で勝ってやるとか思ってもいいはずなのに。では、どうして勝てたのですか?
新田 それは運……ですね。大体、単純な実力で言ったら、今のほうが遥かに高いですもん。
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