失業こそ最大の格差だ
ところが労働団体は「こんな規制では労働者の雇用は安定しない」と批判し、民主党は禁止の対象を2ヶ月以内とし、違法派遣に関与した派遣先に労働者の直接雇用を義務付けるなど、さらに強い規制を行なう改正案をまとめている。これは一見、労働者にやさしい政策のようにみえるが、逆である。
今あなたが失業しているとしよう。今まで日雇い派遣で働いていた人々がアルバイトになったり職を失ったりしてハローワークにやってきたら、求人倍率は確実に下がる。あなたの失業期間は長くなるかもしれないが、あなたの声は厚労省にも民主党にも届かない。彼らが守っているのは、いま雇われている労働者の雇用だけだからである。
ひところ「格差社会」を問題にする声が大きかったが、実際には日本の所得格差(ジニ係数)は先進国の平均程度である。問題は非正規雇用が多いことだが、それを規制しても「格差是正」にはならない。雇用規制を強めたら労働需要が減り、失業が増えることは自明の理である。失業こそ最大の格差であり、厚労省や民主党の政策はもっとも弱い立場の失業者をいじめるものだ。
系列・下請け構造がITもだめにする
日本の非正規雇用の比率が高いのは、今に始まったことではない。派遣労働者という形だけでなく、下請け・孫請けなどは大企業の雇用のバッファーになっており、不景気になると切られる。日本に特有の多重下請け構造は、正社員を事実上解雇できない硬直的な労働市場を補完する機能を果たしてきたのだ。こうした中小企業の賃金が大企業のほぼ半分という二重構造も、戦後ずっと続いてきたものだ。
自動車や電機のようにグローバル化した企業では、もっとも低コストの部分は中国などで海外生産しているが、ガラパゴス化したIT産業はそれもできず、携帯電話に典型的にみられる高コスト構造が温存されてきた。こうした非効率な国内産業が生き延びてこられたのは超効率的な輸出企業が外貨を稼いできたからだが、その構図も今回の経済危機で崩壊した。
いま日本に必要なのは、目先のバラマキ財政政策ではなく、こうした産業構造を改めることだ。OECDも提言するように正規雇用を柔軟にし、労働市場を流動化することは、労働需要を増やして失業を減らすだけでなく、多重下請け構造をなくして古い産業構造を変えるために必要なのである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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