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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第41回

デジタルラジオに未来はあるか

2008年11月04日 19時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ラジオ専用の周波数は電波の浪費


 ラジオ局が無意味なプロジェクトに資金を浪費するだけなら自業自得だ。しかし、困るのはVHF帯のアナログ放送を停止した「跡地」に、デジタルラジオが入る予定になっていることだ。あるテレビ局の幹部は「テレビの終わったあとにラジオって冗談でしょ」と言っていたが、ラジオ局は業界の存亡にかかわるので必死だ。

 アナログの機材がなくなって、デジタル化しないと放送が続けられないラジオ局の事情は分かるが、音声に必要な周波数はわずかなので、ワンセグのようにテレビ電波の隙間で流せる。わざわざラジオ専用の周波数を取る必要はない。特にVHF帯で実験放送中のISDB-Tmmは、もとはラジオ局が主体になっていた方式がテレビ局と一緒になったもので、ワンセグと同じだ。もはや「ラジオ放送」とは言えない。



オークションで電波の開放と財政再建を


 このようにインフラとコンテンツを垂直統合したビジネスモデルは20世紀の遺物で、電波の利用効率が悪くリスクも大きい。VHF帯では米クアルコム社のMediaFLOも実験放送中だが、ISDB-Tmmとどっちが成功するか、誰にも分からない。総務省の官僚が予知能力を持っているわけではないのだから、いくら審査しても結論は出ない。

 今のように技術革新が激しいときは、特定の周波数に技術と免許人を固定して役所が割り当てるのではなく、周波数オークションによって市場メカニズムで電波を配分すべきだ。技術もコンテンツも免許人の自由にし、失敗したら電波を転売する「第二市場」も必要だ。米国ではアナログ放送の「跡地」となる700MHz帯は技術を特定しないでオークションにかけられ、ベライゾンが191億ドル(約2兆円)で落札した。

 日本でも最近、財務省や経産省が「地上デジタルの移行費用は周波数オークションで出してはどうか」と総務省に非公式に打診しており、総務省も前向きだという。日本ではVHF・UHF帯に300MHz以上空いているので、3兆円以上の国庫収入が上がる(関連記事)この「埋蔵金」を開放することによって、日本経済を活性化すると共に財政再建もできる一石二鳥だと思うが、どうだろうか。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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