米マイクロソフトは、開発者向けイベント「PDC2008」(Professional Developer Coference 2008)を米国ロサンゼルス市で開催した。初日最大の話題は、マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」だ。
Windowsの機能を切り売り?
Azureは名前がVistaに似ていて、なんだか新しいWindowsのように見えるがそうではなく、マイクロソフト版「Google App」なのである。もっと簡単にいえば、マイクロソフトは「Windows Server 2008」でデータセンターを作り、これをWindows Azureとして、その機能を従量制で売るのである。Azureはいわばクラウドコンピューティングの「Windows」なのである(編集部注:これに関連してアスキー創業者の西 和彦氏は、2006年にビル・ゲイツ氏が引退を表明した直後に、このような予測を述べていた)。
クラウドコンピューティングに関しては、マイクロソフトが「遅れている」かのように評する向きもあるが、実際には以前に、同様のサービスを構想していた時期があった。
それは、「.Net My Services」(コード名HeilStorm)というものだ。このHeilStormは2001年10月のPDCで、.NET My Servciesとして発表されたものだ。筆者はこれに参加し、旧ASCII24にレポートを書いた。9.11同時多発テロの直後で、飛行機に乗って米国へいくと言ったら、「正気か?」と言われた頃の話である。
.Net My Servicesを簡単に説明すると、データをマイクロソフトが運営するサーバー側に置くことで、さまざまな機能をどこからでも使えるようにしよう、というものだ。カレンダーサービスやシングルサインオンといった機能が提供される予定だった。結局、実際には「Alart」という機能だけがリリースされた。これは、サーバー側が各種のサービスから通知依頼を受け、ユーザーが現在利用している機器へ通知を送るものだ。考え方によっては、Google Desktopがメールや予定をポップアップするのと同じだ(そういえば同じように画面の右下に表示される)。しかし、Alert開始後の世間の批判が強すぎたのか、.Net My Servicesは見直し宣言が出された。
当時の論調では、「マイクロソフトが運営するサーバーに個人や企業のデータを預けるなんてとんでもない」ということだったのだが、現在では企業でも、「Gmail」や「Googleドキュメント」を使う時代である。クラウドコンピューティングの時代を迎えた今、誰もインターネットの向こうにあるサーバーにデータを置くことを気にしなくなった。
パソコンや携帯電話、デジタル家電製品など、インターネットアクセスが可能なすべての機器に対して同じ情報を提供するためには、データはどうしてもインターネット側に置く必要がある。「Googleカレンダー」やGmailならば、ウェブブラウザーが動作すれば、どんな機器でもメールや予定表を見ることができる。
2001年の.NET My Servicesは、こうした状況を見通した計画だったのだが、少し時代が早すぎたのと、当時、独禁法問題などでマイクロソフトへの風当たりが強かったという背景があり、計画を実現することはできなかった。しかし、マイクロソフトは今のGMailやGoogleカレンダーといったものを、見通していたのである。そう考えると、Windows Azureは「帰ってきた.Net My Services」のようなものだ。
もうビル・ゲイツ氏もいないし、当時を知るものも少ない。7年という歳月は世間だけでなく、マイクロソフトも大きく変えた。現同社チーフソフトウェアアーキテクト(CSA)であるレイ・オジー氏は、当時はマイクロソフトにいなかった。だからすんなりと、Windows Azureを始めることができたのかもしれない。
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