バッテリー持続時間は本当に良好
「特化の良さ」を望むか否か
こうした制約を見ると、「21世紀にもなって、そんなに機能の少ないエディター専用機を使わなくても……」と思う人も少なくないだろう。言うまでもなく、モバイルPCやNetbookを持ち歩けばPCのフル機能を扱えるわけで、ポメラのような制限とは無縁である。また、ほとんどのスマートフォンには、ポメラよりも高機能なテキストエディターが存在しており、外付けキーボードを併用すれば、ポメラに近い入力効率を実現できる。
だが、それでもあえて筆者は、「PCやスマートフォンにはない快適さがポメラにはある」と断言したい。それは「軽快さ」だ。
機能制限は多いものの、ポメラの動作はきわめて快適で快速だ。日本語入力機能として採用されているのは、ご存じジャストシステムの「ATOK」。マシンパワーの問題からか、PC向けの最新版に比べると誤変換が多い印象もあるが、実用には十分といった印象だ。PCと同じようにフルスピードでタイプしても、入力や変換の遅延は一切感じない。
機能がシンプルであるということは、逆に言えば「なにも考えなくていい」ということでもある。思いついたことや、耳にしたことを書き殴っていくにはちょうどいい。
それを支えているのが、バッテリー駆動時間の長さと起動の早さだ。
スペック上では、バッテリー駆動時間は約20時間。今回、試用のために1時間連続使用を数回繰り返して、7~8時間程度は使ったはずだが、バッテリーメーターに変化はない。パソコンやPDA、携帯電話とは比べものにならないくらい安心感がある。しかも、バッテリーは単四電池2本であり、どこでも容易に入手できる。
起動にかかる時間は掛け値なしに2秒以内。起動した瞬間から作業が行なえるのも快適である。作業終了時には電源ボタンで終了してもいいし、キーボードを折り畳んでしまってもいい。キーボードを折り畳むと、自動的に電源が切れるからだ。
これらの要素が、「紙のようにメモできる」という主張の元となっているのだろう。それは確かにそのとおりで、モバイルPCとはまた別の良さがある。
ただしその一方で、現在の「テキスト制作」のトレンドから言うと、「書ける」だけでは不満を感じるのも事実である。
現在は「なにかを見ながら」文書を作ることが多い。特にネットの情報を見ながら、別のテキストを書くことが増えている。テキストを人に渡すのも、メールなどのネット経由が増えている。これらはすべて、ポメラではできない。文書編集機能もひとつの文書しか開けないので、複数の文書を切り替えながら作業することは難しい。動作が速いので、ファイルを読み込み直して内容を確認することはできるが、操作手順が増えるので、頻繁にやるとやはり面倒だ。
結局、ポメラは「メモ作成機」なのだ。最終的な編集と文書仕上げには向かないが、その素材となるメモをガンガン作っていくなら非常に快適だ。最終原稿ではなくメモならば、8000字のサイズ制限も貧弱な編集機能も問題とはならない。一番大切なのは「すぐ使える」ことであり、「入力をさまたげない」ことだからだ。
このあたりの感覚は、「思いついたらすぐ書ける道具が必要か否か」という辺りで、変わってくるだろう。筆者には、ポメラの快適さはなかなか捨てがたい。仮にモバイルPCを持ち歩いていたとしても、「また別のものとして使いたい」と感じるほどである。
だが、「モバイル機器はネット利用が中心」ならばそうではない。何かを書くにはネットを見ながらで、それを送る/表現するにもネットを使って……と考えるなら、携帯電話やスマートフォン、Netbookでなければならない。
ポメラは、キングジムという文具メーカーの「初物」としてはきわめて良くできた製品である。だがその性質上、「必要な人」「そうでない人」は大きく分かれそうだ。
- オススメする人
- ・即座に、いつでも使えるメモマシンが欲しい人
- ・ついバッテリーの充電を忘れる人
ポメラ DM10 の主なスペック | |
---|---|
CPU | 不明 |
メモリー | 1ファイル/8000字を6ファイル |
ディスプレー | 4型 640×480ドット モノクロ |
サイズ | 幅145×奥行き100×高さ30mm(折りたたみ時) |
重量 | 約370g |
バッテリー | 単4アルカリ乾電池×2、コイン電池CR2032×1 |
バッテリー駆動時間 | 約20時間 |
対応OS(PCリンク時) | Windows Vista/XP Home Edition、Professional |
価格 | 2万7300円 |
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)がある。

この連載の記事
-
第116回
PC
「VAIO Duo 13」—革新は形だけじゃない! 変形ハイエンドモバイルに込めた思い -
第115回
PC
ソニーの本気—Haswell世代でVAIOはどう変わったか? -
第114回
PC
渾身の「dynabook KIRA V832」はどう生まれたのか? -
第113回
PC
HPの合体タブレット「ENVY x2」は、大容量プロモデルで真価を発揮! -
第112回
PC
ソニー“3度目の正直”、「Xperia Tablet Z」の完成度を探る -
第111回
PC
15インチでモバイル! 「LaVie X」の薄さに秘められた魅力 -
第110回
PC
フルHD版「XPS 13」はお買い得ウルトラブック!? -
第109回
デジタル
ThinkPad Tablet 2は「Windows 8タブレット」の決定打か? -
第108回
デジタル
今後のPCは?成長市場はどこ? レノボ2013年の戦略を聞く -
第107回
PC
Windows 8とiPadがもたらす変化 2012年のモバイルPC総集編 -
第106回
PC
Clover Trailの実力は? Windows 8版ARROWS Tabをチェック - この連載の一覧へ