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デザイナー、ヤン・チップチェイス氏インタビュー

日本から学ぶ、10億人が使うノキアのケータイ

2008年10月10日 13時00分更新

文● 松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

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ノキアデザインセンターのデザイナー、ヤン・チップチェイス氏。「人間は誰しも、自分を投影したいと考えています。持ち物を介してその欲求を表現します」。チップチェイス氏の社会学的アプローチが、ノキアの先端的デザインをカタチ作る

 世界で最もケータイを販売しているメーカーであるノキア。現在世界で約10億人がノキアユーザーというのだから、その規模には驚かされる。

 2008年9月10日のプレスイベントで、ノキアデザインセンターの研究者であるヤン・チップチェイス氏がプレゼンテーションを披露してくれた。ノキアが常日頃から実践している、人間行動の観察から端末を進化させていく手法。この様子に非常に興味を持った(関連記事はコチラ)。世界を飛び回るチップチェイス氏にさらにそのリサーチ活動について深く聞いた。


観察から全てのデザインが溢れ出す

 チップチェイス氏へのインタビューの冒頭、取材をする我々が逆にこんな質問を受けた。「家を出るときに、持って行くモノ3つ挙げてください」。

 僕は「ケータイ」「カードケース」「カメラ」と答えた。

 先進国で同じ質問をするとたいてい、「財布」「カギ」「ケータイ」となるそうだ。カギを持っていないことや、カメラを持ち歩くことが僕の答えと違う。そこでチップチェイス氏は「なぜ違うのか?」と聞いてくる。

 そこで、カギを持たない理由として「何らかの生体認証がカギの代わりになる住宅セキュリティー」の話が出てくる。また、財布ではなくカードケースを持つのは「小銭決済を電子マネーで、大きな買い物はクレジットカードで決済している」ため。カメラを持つ理由は「ケータイのカメラでは満足しない写真好き」という個人の趣味に辿り着く。

 これが、人間行動の研究を端的に表す1つの例である。

 人間の行動や行為を発見し、その理由を紐解いていく。時には、「シャドウイング」と呼ばれる、朝起きてから夜眠りに就くまでの個人の行動を丸ごと追いかける。

人々が携帯電話を持ち歩くところ。photo by Jan Chipchase

 チップチェイス氏のような研究員が途方もなく膨大な時間と努力をすることで、ノキアはグローバルなマーケットを理解していく。その結果端末に反映されるのは些細なことかもしれない。しかしそこに価値があることを、ノキアは知っているのだ。


0.5秒の削減が世界を動かす

 ノキアの端末開発の中心にあるのがノキアデザインセンター。300人以上のデザイナーを抱える世界規模の組織の構成はユニークだ。34の国や地域から、工業デザイン、グラフィックスデザインのほかに、インタラクティブデザイン、素材や色のトレンド研究など、多岐にわたる研究領域に人材が集まっている。ここから3~15年先のケータイのデザインが生まれてくる。

 なぜ、これだけ大規模な研究体制が必要なのだろうか?

 「例えば、僕の同僚は、インタラクションの設計をしていて、ショートメッセージングの担当です。例えば、1通のSMSを送る時間を0.5秒短縮することは、世界にとって計り知れないメリットがあります」

 つまり10億人もの巨大なユーザーを抱えるノキアのケータイの進化は、世界に大きなインパクトを与えると考えているのだ。

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