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著作権ウォッチャー 第1回

2008年・著作権の注目は「動画共有」と「フェアユース」

2008年12月30日 14時00分更新

文● 谷分章優

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「日本版フェアユース」議論の本格化

 2008年で目立ったもうひとつの動きは、日本の著作権法に「フェアユース」規定を入れようという議論が本格的に始まったことだ。

 一般にはあまり知られていないが、実は日本では、GoogleやYahoo!のような検索エンジンのサーバーを立てると「違法」になってしまう。サーバーの中に、ネット上の文章や画像などを勝手にコピーしたということで、著作権の侵害と解釈されてしまうからだ。

 また、あちこちのウェブサイトを保存して日付ごとに参照できるようにする「Internet Archive」のようなウェブアーカイブや、ユーザーがファイルを保存できる場をネット上で提供するウェブストレージなども、日本では権利侵害と判断される可能性が高い。

 これらのサービスは米国では訴えられてすらいない。なぜ、米国ではサービスが続けられるのに、日本では違法という判断がなされるのか──。その理由のひとつとして「フェアユース」規定がないからだと言われている。

 ここで話題になっているフェアユースというのは、米国の著作権法にある規定で、「公正な使用ならば著作権の侵害にならない」というものだ。著作物を使う際、権利者から許可を取る必要があるのは米国でも同じだが、このフェアユースの範囲なら無断で使える。

 フェアユースの範囲というのは、なかなか分かりにくい。米国の著作権法の中にも判断基準しか書かれていない。まず著作物を利用する側がフェアユースと思う範囲で使ってみて、権利者に訴えられたら裁判所に判断してもらうという仕組みだ。

条文の訳はCRICサイトに掲載された邦訳より引用した

 つまり著作物を扱っている時点では、合法なのかはっきりしていない。しかし、このはっきりしないことがいい方に作用する。裁判にかけられるリスクを踏まえつつ、あえて著作物をからめたビジネスを米国で始めて、急成長することがままあるのだ。

 先の検索エンジンなどがその例だと考えられている。そして日本ではそうしたビジネスが育っていないという反省がある。

 フェアユースという形ではないが、日本でも、無断で著作物を使える場面というのは定められている。たとえば私的複製や、引用、教育に関係した場面など、個別の事例が著作権法に並べてある。その反面、この個別の事例に当てはまらないような新しい状況で著作物のコピーなどがされてしまうと、「違法」ということになってしまう。

 ネットでの新しいサービスを日本で合法に続けるとすれば、フェアユースがないうちは、個別の事例で違法とならないようにしていかなければならない。実は検索エンジンについては、2007年のうちに文化庁で法改正を決めている。ところが2008年が終わろうとしている今でも、実現していない(関連記事)。

 法改正をするには時間がかかる。しかしその間、該当するサービスは「違法」のままだ。そのような制度をずっと続けていくよりも、フェアユース規定を使わせて、その後の裁判で白黒付けさせた方が、新しい発想が世に出るのをさまたげずに済むのではないか。

 そうした考えから、内閣府で知財制度の方針を考える「知的財産戦略本部」が、日本でフェアユースを導入するかどうか議論を重ねてきた。ここの「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」という有識者会議が、2008年3月から11月にかけて実施したヒアリングと検討の結果をまとめ、近いうちに「日本版フェアユース」を入れるべきと提案する。

 その後は、著作権法の改正を直接担当している文化庁のもとへ議題が渡される。著作権の審議会で日本版フェアユースの具体的な規定が固められていく予定だ。

知財戦略本部

知財戦略本部の組織図

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