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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第22回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

失敗の創造性

2008年10月19日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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 WYSIWYGの価値は、アイデアを客観視できることにある。頭の中にあってもやもやしているアイデアをいったんMacにインプットしてみることで、それが画面に映し出される。こうするとアイデアを客観的に見ることができ、次の一手を考えられるのだ。

 いまでこそ当たり前になったこのWYSIWYGこそ、「あーでもない、こーでもない……」という試行錯誤の源にある。頭の中のアイデアをとりあえずかたちにして客観視し、また次のアイデアを練るという繰り返し。絶好の思索ツールである。

 画面表示がWYSIWYGだと、常に仕上がりを確認しながら作業することができる。スライドに写真と文字を配置するときに、写真を上にしてみたり大きくしてみたり、文字のフォントを選んだりメリハリをつけたり?──こういった一連のプロセスで、画面に表示されているのはいつも仕上がりの姿だ。実行してから、気に入るかどうかを考えられる。

 このように「取り消す」と「WYSIWYG」があることから、Macは失敗を推奨する環境だと言える。失敗しながら表現の洗練性を高めていくことができる。納得するまで、やり直しを続けられるのだ。

 プロ用の写真ソフトであるApertureの「バージョン」という機能も失敗推奨機能のひとつ。一枚の写真から複数の「バージョン」を作ることができる。白黒にしてみるとか、トリミングしてみるとか、色みを補正するといった編集作業をするとき、それぞれを別々のバージョンとして残せる。

 ひとつの写真に異なる手を加えた作品をあとから比較し、最善のものを選ぶことができるのだ。クリエイティブワークに不可欠な、いろいろ作ってみて最高のひとつを選ぶというプロセスが、わかりやすく実現されている。

 さらに、Leopardに搭載されたTime Machineも失敗を許容する機能だ。自分がMacで行った作業をさかのぼって拾いだせるので、過去の作業過程のファイルとか、捨ててしまったファイルをもう一度、創作の俎上に載せることができる。  このようにMacは、本当のクリエイティビティーは失敗の中から生まれてくるというコンセプトを、さまざまなかたちで具体化している「失敗推奨装置」なのである。


(次ページに続く)

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