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肯定力

2008年10月12日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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 この場合、既存のXには触れずに、Xとは異なるアイデアを提示する意見が望ましい。たとえば「Y(というコンセプト)に基づく製品がいい」とか、「今後はZを基軸にしてみたら時代のニーズに合いそうだ」といった意見である。否定語を避けるという目先の表現手法だけではなく、考え方を根本的に前向きに、肯定的にすることが大切なのだ。英語表現においてはこのように、全体として「肯定系」にのっとった表現が要請される。

 この考え方は、教育の場でも実践されている。米国で出会ったある小学校の教師は、子どもに対して「〜するな」ではなく、何を行うべきかを言葉や行動で示すようにと、親たちを指導していた。たとえば、「Don't stop, here.」ではなく「Keep walking.」というように。

 これは、否定表現を好まない英語を使う米国の親たちでさえも、子どもに対して否定語で話しかけてしまう場合があるという証左である。従ってここで大切なのは、それをどうにか肯定形に転換して表現していこうとする姿勢なのである。それによって大人も子どもも、肯定系への指向が培われてゆくのだろう。

 否定表現を肯定系に転換するのは、やってみると意外と難しい。子どもたちは、「××するな」と言われたら、「じゃあ、どうしたらいいのだろう」と考えることを迫られるが、それは大人でさえ難しい肯定系への転換を子どもに強いることになる。「やめるべきこと」ではなく「やるべきこと」を示すほうが、子どもは対応しやすい。

 では大人が肯定系を示すためには、何ができるか。それは普段から思考や表現を肯定系にシフトするようにつとめることだ。肯定力を鍛えるのだ。

 まずは自分を肯定する。自分の考えを肯定する。自分がやっていることを肯定する。次に他人を肯定する。他人の考えを肯定する。他人がやっていることを肯定する。

 確かに「ダメ出し」はありがたいし、「つっこみ」は面白い。しかし、そういった「否定系」とは別の価値と心地よさが「肯定系」にはある。

 否定系より肯定系。日常会話、メール、ブログ、書類などの表現を肯定系にシフトしよう。考え方も肯定系にしよう。すると新たな発想や独自のアイデアを生み出しやすくなる。あらゆるものが肯定され、社会に受容されるからだ。肯定力は人と社会を創造的にするのである。


筆者紹介─塩澤一洋


著者近影

「難しいことをやさしくするのが学者の役目、それを面白くするのが教師の役目」がモットーの成蹊大学法学部教授。専門は民法や著作権法などの法律学。表現を追求する過程でMacと出会い、六法全書とともに欠かせぬツールに。2年間、アップルのお膝元であるシリコンバレーに滞在。アップルを生で感じた経験などを生かして、現在の「大公開時代」を説く。



(MacPeople 2008年3月号より転載)


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