塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第21回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
肯定力
2008年10月12日 15時00分更新
これらを「急がないと間に合わないよ」などの二重否定表現と比べるとどうだろう。肯定形で表現するほうが未来への明るい展望が開けている印象を受ける。
「静かにしなければいけない」これも二重否定を使った典型的な表現だ。「静かにしなきゃ!!」はその省略形。
しかし、これも肯定形で表現できる。「静かにしたほうがいい」「静かにすべきだ」「静かにしよう」「静かにする必要がある」
もちろんニュアンスは若干異なる。でも重要なのはそのあとに続くべき言葉への意識だ。
本来、このあとには「なぜならば○○だから」という理由への言及が続くはずだ。しかし多くの場合、前述の「だから……」と同様、省略されてしまう。あるいは理由のことなど意識せず、単純に「××しなければいけない」と口にしていることも多いように感じる。
このほかにも、「ない」は同意を求めるときなどに使われる。こんな会話はどうだろう。
「これ、イケてない?」
「っていうか、イケてなくない?」
「えー!? イケてなくなくない?」
こうなるともう、「イケてる」んだか「イケてない」んだかわからなくなってくる。「ない」を重ねて、負のスパイラルに陥っている様子だ。
「ない」を使わずに言い換えれば「これ、イケてるね」となる。これでも十分に、同意を求めていることが伝わる。「ね」を使うと強く同意を求めているように感じられるため、それを回避したくて「ない」を使うのだろうか。それならば、「これ、イケてるよ」と言えば、同意を求める程度を小さくして、自分の見解を表明できる。
われわれはどうしてこうも、否定語や否定的表現を多用するのだろう。私はその答えを持っていない。しかし、これらの否定語を使った表現をひとつひとつ肯定形にしてゆくと、会話も気持ちも前向きになって、気分も雰囲気もよくなると思うのだ。それが言葉の肯定力である。
(次ページに続く)
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