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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第32回

国費投入の前に地デジの計画を凍結せよ

2008年09月02日 09時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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地デジはもともと必要なかった


 ……と考えてゆくと「なぜ最初からCSでデジタル放送をしなかったのか?」と疑問に思う読者もいるだろう。その疑問は正しい。地上に中継局なんか建てないで、最初からCSでデジタル化すれば、全国100%がデジタル化できる。CSの中継器の年間リース料は、ハイビジョンでも1チャンネル2億円以下だから、NHKと在京キー局をすべてデジタル化しても、15億円以下ですむ。1兆円以上かかる地デジよりはるかに安い。

 このような反対論は、地デジの計画が決まった10年前から、郵政省(当時)内部にもあった。デジタル放送を担当していたある課長は「デジタル化は200億円で衛星を飛ばせば、すぐできる。地上の中継局は必要ない」と反対したが、彼は放送行政局から配置転換されてしまった。

 CSの50倍以上のコストをかけ、10年かかって地上でデジタル化するのは、「CSではローカル放送ができない」というのが建て前だ。しかしローカル局もCSを使えば独自放送はできる。欧米ではローカル局が、CSで全国放送に進出している。つまり番組制作力のあるローカル局にとっては、地上波よりCSのほうが有利なのだ。



地デジの計画を凍結して見直せ


 要するに、わざわざ高コスト地デジを進めているのは、制作能力のない地方民放の既得権を守るためなのだ。彼らの独自番組は10%ぐらいしかなく、キー局から番組を供給してもらって電波料と称する補助金をもらっている。こんな楽なビジネスはないから、彼らは電波利権を守ろうとするわけだ。

 しかし地デジの設備投資負担は重く、今年の3月期決算では、地方民放約120社のうち30社が赤字になった。これはキー局に補助金を出す余力がなくなったことを示している。キー局の広告収入は昨年の数%減で、テレビ東京は9月期中間決算で赤字を計上する見込みだ。日本テレビ取締役会議長の氏家齊一郎氏は「キー局も、あと3年でみんな赤字になり、つぶれる地方局も出るだろう」と予想している。 テレビ局の守っているつもりの電波利権は、むしろお荷物になっているのだ。

 今度の国費投入における本当の目的は、こうした地方民放の救済だ。しかし本来はテレビ局が行なうべき周波数の移行措置を、携帯ユーザーの負担で国が行なうのは筋違いである。少なくとも残り9500局の中継局の建設は凍結し、地デジの設備投資計画を見直して、ホワイトスペースを開放するなど、国民にとって2200億円の価値があることを総務省は説明すべきだ。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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