グーグルが8月5日に国内でサービスを始めた「Google マップ ストリートビュー」(以下、GSV)がネットで話題だ(関連記事)。便利だという声が出ている一方で、ラブホテルに入るカップルや車のナンバー、垣根を越えた家の外観がばっちり映っている場所もあって、「プライバシーの侵害だ」「日本の文化に合わない」という批判も飛び出している。
GSVの開始後、グーグルはユーザーからの削除依頼を受けて、いくつもの場所の画像を非表示にしてきたが、いまだこの手の議論は収まる気配がない。8月27日には、インターネット先進ユーザーの会(MIAU)が、この件についてのシンポジウムを行なっている。一体、この件の何が論点になっていて、われわれは何を学べばいいのだろうか。MIAUのメンバーの一人として、先のシンポジウムを開催したジャーナリスト、津田大介氏に話を聞きいた。
3タイプの意見が出ている
── GSVについて、ユーザーからどんな意見が出ていますか?
津田 ユーザーの反応は大きく分けて3つあります。
ネットの中で目立つのは否定派です。彼らは「プライバシー的に問題だ」「防犯のためにもやめてほしい」といった理由からGSVを否定しています。その意見は「俺が気持ち悪いからやめろ」という感情的な声や、GSVが日本社会にもたらすリスクを冷静に分析しているものなどさまざまです。
これに対して積極的にGSVを認める肯定派もいる。大まかには「GSVは可能性を感じるサービスだし、プライバシーやセキュリティーリスクなども言われているほど大きくはないんじゃないか」という感じの人が多いですね。
3つ目は、積極的にGSVを肯定するわけではないが、消極的には容認するというような容認派です。これが意外と多い。
そうした人々の基礎には、「グーグルがやらなくてもどうせ別のところから似たサービスは出てくるのだから、既存の枠組みで考えるのではなく、法律や人々の意識を変えないとだめなんじゃないか」という考え方があります。また「GSVそのものは否定しないけど、個別で問題になるケースはたくさんあるから、それはグーグルが対処すべき」という考え方もあります。
── どの意見が多数派なんでしょうか?
津田 どれが優勢というわけではなく、日本におけるGSVの議論は錯綜している感じです。サービスに対して温度差がある3タイプの人たちが、法律、人権、防犯問題、グーグルの社会的責任など、論点がまったく違うことをバラバラに話している。現状では、細かな論点出しもまだ十分には終わってない気がします。
ただ、ひとつ言えるのは、これだけ社会的インパクトの大きいサービスを、グーグルが社会的な合意(コンセンサス)を取らずに強行してしまったのが、今の混乱を招いているということでしょう。
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