塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第18回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
著作権法をポジティブに
2008年09月21日 15時00分更新
また、次のような解説も無用だろう。
「あの標識は7時から9時までおよび16時から18時までのあいだ右折を禁じているもので、朝夕のラッシュ時に通行する歩行者との干渉を防ぎ、事故を防止するとともに渋滞を防止するのがその趣旨だ。そして車種の限定は、大型車の右折を禁ずるもので、大型車とは……」
「もういい」とあなたは言うだろう。とっくに右折車線に入るタイミングは過ぎている。欲しい答えは、右折できるかできないか、その一点だ。
つまり、「右折できるよ」と即答してくれるのが一番うれしい。右折できそうだけど標識が複雑なのでいまいち自信がない、というあなたの背中をポンと押してくれるひと言。それも法的な裏付けのある確信を持った力強い言葉。「即時」に発せられる「肯定的な」答えがもっともありがたいのだ。
ではもしその交差点で右折が禁止されている場合、法律家はどのような解答をするのが望ましいだろう。
まず第一に、「右折できないよ」と明確に答えることが重要だ。しかし、それだけで終わったら、法律家のアドバイスとして不十分。なぜなら右に行きたいあなたが欲しい情報は、どうやったら右に行けるか、だからだ。
そこで、それに続けて、「だけど、100m先まで行ってUターンしよう。そこから戻ってきてこの交差点で左折すればあの道に行けるよ」と言うべきだ。
「あれはできません」「これはできません」というアドバイスはありがたいけれども価値は高くない。「やはりできないのか」と落胆を招くだけだ。
「いい法律家」なら、「できないこと」ではなく「できること」を具体的に明らかにすべきだ。そして、「できない」「むずかしい」と考えがちなことでも「こうすればできる」というアイデアを示せれば、クリエイティブな法律家になる。相手の質問の真意を理解し、その要望を実現する方策を提示するのだ。
そのタイミングが絶妙であれば、そのアドバイスは絶大な価値を持つことになる。いい法律家は、その場で適用されるルール全体を勘案し、前進可能な方向を明らかにするナビゲーターなのである。
(次ページに続く)
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