塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第16回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
デジタルの時間軸
2008年09月07日 15時00分更新
デジタルな時の流れ。意識してその痕跡を残す
コンピューターのインターフェースもまた、身体感覚になじむよう進化してきた。パンチカードといったおよそ人間の感覚からほど遠い入力方法から、キーボードによるテキスト操作ができるようになり、さらにグラフィカルインターフェースを基礎にマウスやトラックパッドで指示するようになった。アップルはその進歩と普及に大きく貢献してきた。そして今、アップルはiPhoneでまた大きな進化を形にしたのである。
iPhoneの操作は至って直感的だ。1本または2本の指で紙を扱うのと同じような動作をすれば、iPhoneがそれに呼応してくれる。さわる、めくる、はじく、ひらく、つまむ。そのダイレクト感が気持ちいい。
これを使い始めると、なじみあるMacの操作体系とはまったくコンセプトが異なることに気づく。Macではマウスやトラックパッドでポインターを動かし、画面内に表示されている各要素に指示を伝える。今まで、これはかなり「ダイレクト」だと感じていた。けれどもiPhoneのダイレクト感は異次元だ。
たとえば、MacBookなどのトラックパッドで2本指スクロールすると、画面は指の動きと反対方向に動く。スクロールバーを動かす動作だからだ。一方iPhoneでは、指と同じ方向に動く。初めてiPhoneを触ったときは多少の違和感があるとしても、すぐに慣れる。指の動きと同じ方向にスクロールするほうが明らかに直接的で、感覚に合っているからだ。
しかし、iPhoneの操作性がどんなに「直接的」で身体感覚になじむよう進化しても、古くなったからといって黄ばんだりせず、「時間の経過」を感じ取れるまでのリアリティーはない。もちろん、iPhone自体は傷がついたりして時間の経過が刻まれていくが、そこに表示される情報の古さを肌で感じ取ることはできない。
(次ページに続く)
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