日本のアニメーションを代表する監督5人、杉井ギサブロー監督、りんたろう監督、出崎統監督、高橋良輔監督、富野由悠季監督が広島に集結した!
五大監督かく語りき……「私が手塚治虫から学んだこと」
2008年09月02日 20時00分更新
手塚治虫はこわかったのか、やさしかったのか
片山
それではふたつめの質問です。先生はこわかったんでしょうか、やさしかったんでしょうか。
富野
やさしかったと思います。やさしかったと思う原因のひとつに、たとえば、オレの映画観と手塚治虫の映画観はだいぶ違っていて、手塚先生は少し映画に対して甘いんじゃないかと思っていた。
―― 会場どよめく
片山
えー、良輔監督にとって、こわかったか、やさしかったか、意地悪だったか?
高橋
こわかったことはないんですけども、一回だけ厳しかったのは、当時、先生の仕事場は2階にあって、螺旋状の階段の下に漫画部の人たちがいたんですね。原稿の出し入れを紐でもってクリップに繋いだりして、下ろしたり上げたりしていたんです。それに自分の絵コンテを上げて挟んであげた時に、手塚先生がちらっと見たんでしょうね。5分ほどしたら、バサッと落っこちてきましてね、「全部、やり直してくださぁーいッ!」。
―― 会場笑い
高橋
それが、僕の演出のスタートでした。厳しい先生ではありました。僕にとっては(やさしさよりも)厳しさが先でしたね。
片山
ありがとうございます。出崎監督はいかがですか。
出崎
良ちゃん、そうだったんだ(笑)。僕の場合は一部手を抜いてくれ、という感じだった(笑)。いや、あのやさしいもこわいもね、人間なんて両面あるから。それよりもなんというかなあ、僕にとってはそれ以外の何者でもない。やさしいのも当たり前だし、こわいのも当たり前だし。そういう風にずっと思っていましたね。
片山
ありがとうございます。りんたろう監督はいかがですか。
りんたろう
はい、やさしい面もあって、もちろんこわい面もありましたけどね、僕はとにかく一番の印象は人使いが荒いなぁという、これだけです。
僕は最初、アニメーターをやっていまして、どうしても演出をやりたいということで、しょっちゅう先生に手を挙げていた人なんです。ある時、先生に呼ばれて「えー、りんちゃん、演出やんなさい」といわれたわけです。で、ついては、もうすでにあがっている絵コンテがあるから、これを直してほしいということだったんです。僕はとにかく演出家になりたいので「はい、わかりました」といって絵コンテを見せてもらったんです。これは当然、『鉄腕アトム』です。「ミドロが沼の巻」というタイトルです。この30分の絵コンテを描いている人はこの前亡くなりました赤塚不二夫、石ノ森章太郎、鈴木伸一、藤子不二雄、こういう人たちが合作で描いているんです。これはトキワ荘からのつながりで、手塚治虫がテレビアニメをやるからぜひ手伝いがしたいと申し出て描いた合作です。これがじつは見てみると、赤塚不二夫風のアトムがいたり、藤子風のアトムがいたりして、話がまったくつながらない。
―― 会場笑い
りんたろう
僕はそれを一本にまとめるというのが最初の演出の仕事でした。先生は人使いが荒いなあ、と思ったのが印象ですね。
手塚
昨日、りんさんにお聞きしてはじめて知ったんですけども、「W3」の時に唐十郎さんが脚本で参加されていたんですね。
りんたろう
そうです。唐十郎って知っている方はいらっしゃるかな。大変な演劇の人です。この人も脚本を書いていましてね。ある時どうしても書けなくなって、「すみません、書けません。書けませんから、お詫びに金粉ショーをやります」といって(笑)、金粉ショーをやったという大変な人なんですよ。
―― 会場笑い
りんたろう
唐十郎さんだとか、寺山修司さんだとか、いろんな人がアニメーションに関わっていました。
手塚
唐さんの書かれた脚本を、うちの父親は気に入らなかったんだけども、ご本人に「脚本を書き直して」といいにくかったという……。
りんたろう
そうみたいですね(笑)。
手塚
それはちょっとこわかった?
りんたろう
こわかったでしょうね。顔つきがすごいですからね。
高橋
「W3」は僕らがやっていました。えー、手塚先生を睨むんですよ、唐さんは。
―― 会場笑い
高橋
直しを入れようとすると、下の方から、こう睨むんです。
―― 下から覗き込むようなジェスチャーをする高橋監督
高橋
手塚先生、本当に暴力的なことが嫌いで、こわがってですね。それで、その後に(僕に)これなんとかしてください、と。唐さんの脚本のエピソードは8本くらい僕がやりました。
りんたろう
良ちゃんが唐十郎さんの脚本をやっていたけど、僕が知っているのは別のシリーズですね。そこでも書けなくて、それでお詫びに踊ります、と。そこだけ憶えています(笑)。
―― 会場笑い
片山
杉井監督は手塚先生とは虫プロの中で一番古い付き合いになりますが、先生の印象はこわいかやさしいかなどいろいろなお話をお願いいたします。
杉井
僕の印象では、最初に話したように先生は今思えば30代、僕らは20代。年齢はそんなに離れていなかったんですけど、僕らにとっては大先生ですから、ある種の緊張感をもって接していました。手塚先生は僕の印象では一度もスタジオで、アニメーションをやりながら「オレは天下の手塚だ」とか、「虫プロの社長だ」とか、そういう態度や口調は一度もしたことがないですね。僕らは若者だったんですけど、先生としてはひとりの作家としてちゃんと扱ってくれたというのはすごく印象的でした。虫プロダクションというのは、本当にアニメーション作家をたくさん育てていると思うんですよ。それは、僕らは若いからわがままだったんだけども、先生もいっしょになってわがままをするという作家集団であったというのが、虫プロの特徴だったんじゃないかと僕は思っています。
片山
それは仰る通りですね。ここに居並ぶ大監督たちの顔ぶれを見るまでもありません。またさらに多くの人々を排出しております。それが虫プロダクションでありました。以上、質問のふたつめでした。
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