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経済予備校 第7回

最終回~ノックダウン寸前の日本の景気~

世界のカネ余り現象と怖い日本の将来

2008年08月25日 04時00分更新

文● 金山隆一

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日本の電機、自動車が大打撃

 日本の景気悪化の要因の1つは外需の低迷、つまり日本からの輸出の停滞だ。きっかけは昨年夏に発覚し、世界を震撼させた米サブプライムローン問題だ。

■米サブプライムローン問題─基本─

米国の金融機関は住宅資産を担保にした金融商品を多く持つため、上がりすぎた住宅価格の下落で、金融機関は損失を被り、それが金融機関に貸し出しを渋らせる悪循環へと突入。米住宅価格そのものの下落も止まらず、2008年5月時点の前年比下落率は16.9%(S&Pケース・シラー指数)に達した。

日本総合研究所 岡田哲郎氏

岡田哲郎氏
日本総合研究所
マクロ経済研究センター所長 主任研究員

日本総合研究所

「フロリダやラスベガス、カリフォルニアなど、かねて住宅バブルが指摘されていた地域だけでなく、シアトルなどこれまで比較的安定していたところでさえ、全体に引きずられる形で住宅価格が下落に転じ始めています」(日本総研の岡田哲郎主任研究員)

 米住宅価格の下落がなぜ、日本の景気に悪影響を及ぼすのか。米国では、住宅の値上り益を担保に借りる消費者ローン(「ホームエクイティーローン」と呼ぶ)が広まっている。このローンは住宅価格の値上がりを前提に組まれるため、住宅価格が下落し始めると、新規の借り入れができなくなるばかりでなく、最悪の場合は住宅を差し押さえられる。米国の個人はこのホームエクイティーローンで借りたお金を消費にも回していたため、住宅価格の値下がりは米国消費の低迷に直結してくるのだ。

 問題はこの米国のGDPの7割を占める個人消費が、世界全体の消費の約3割を占めている点にある。しかも、日本の代表的な輸出産業である電機や自動車は、米国市場に大きく依存している。その影響が国内でも顕著に現われており、日本最大の製造業であるトヨタ自動車では、この北米市場での自動車販売低迷などを受けて、トヨタ自動車グループの国内生産拠点で非正社員の削減が進んでいる。トヨタ九州、デンソー、関東自動車工業など主要5社の派遣社員・期間従業員の削減数は直近の3~4カ月間で約2300人にのぼったという。

原材料を輸入して、加工品を輸出して成り立つ日本

 米国景気の失速の影響はこれだけにとどまらない。これまで米国の通貨ドルや株式市場、債券市場などに流れていた世界のマネーが、米国の成長期待の低下やそれに伴うドル安を背景に、原油や穀物など商品市場に大量にシフトしていった。この結果、世界的に資源価格が高騰。原材料を輸入し、これを加工して輸出で儲ける貿易立国である日本の経済をさらに苦しめている。石油・石炭製品の原材料仕入れ価格はこの1年で70%も上昇、鉄鋼製品の原料となる石炭や鉄鉱石もこの1年で2~4倍に高騰し、日本のあらゆる製造業を直撃している。

「日本の最大の問題は、輸入物価がこの1年間で30.3%も上がっているのに、輸出物価が3.6%しか上がっていないことです」(岡田氏)

輸出入物価の推移

輸出入物価の推移(日本総合研究所資料より)

 鉄鋼業界や自動車業界などは、原材料の高騰を製品に転嫁する動きを強めてはいるものの、個人消費が低迷するなかで、最終的な小売価格の値上げは簡単には進まない。例えば、薄型テレビなど電機製品部門では仕入れ価格が前年と較べて1.7%上昇する一方、販売価格は逆に4.3%下落している。「川上(仕入れ価格)の上昇と、川下(販売価格)の下落という板挟みに直面しているのが日本の製造業の置かれている実態」(岡田氏)というわけだ。

■広がる資源高の影響

 原油など資源価格高騰は、燃料の高騰で採算が取れない漁船が増加するなど日本の漁業に甚大な被害をもたらしているほか、ガソリン価格の高騰が主要な移動手段を自動車に依存する地方経済の消費を直撃している。また、レジャー産業などにも影響を及ぼしている。しかも8月からは、マヨネーズやチーズ、卵などの食品も一斉に値上がりしており、これがさらに日本のGDPの7割を占める個人消費を冷え込ませている。

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