すべての端末が「インターネットマシン化」する
── iPhoneもそうした「端末力」の強い機種ですね。
林 ええ。最強の個性を発揮する端末ですね。そして孫さんがソフトバンクモバイルを設立した頃から、おそらく実現は2008年頃だろうと想定して、心待ちにしていた「インターネットマシン」を一番うまく体現した製品だったんだろうな、とも思います。
2004年、アップルのスティーブ・ジョブズは、ビジネスウィークのインタビューに答えて、「プロセスというものは作業を効率化させるのには役立つけれど、大事なのはその都度、その都度、話し合い、頭をひねって考えることだ」と言っています。
要するにプロセスとか、システム、フローといったものを作ってその中に安住してしまうと、思考停止してしまう部分がある。21世紀になったばかりのとき、なぜiモードが生まれたかといえば、本当のインターネットにアクセスしたいけれど、当時のケータイでは通信の速度も、端末の性能も、画面解像度もおよそウェブブラウジングに使えたものではなかったからです。
ソフトバンクによれば2Gの頃と比べると、通信速度は375倍向上したという
でも、孫さんいわく「今日は通信速度がiモードができたばかりのときの375倍、液晶の解像度が24倍、CPU能力も24倍」とのこと。そんな時代にiモードの延長を作っているほうがおかしい。普通のパソコン用のインターネットがケータイに降りていくのはある程度、分かりきったことだと思います。
もちろん、これまでのiモードの文化を築いてしまったこともあって、すぐにすべての端末が変わることはできません。とはいえ、来年以降もAndroidが出てきたり、他社のケータイがiPhone化していくことでしょう。いずれはほとんどのケータイがインターネットマシン化していくと個人的には予想しています。
── すべての端末がインターネットマシン化を終えるまでに、何年くらいかかると思いますか。
林 私はまったくの当てずっぽうで4、5年くらいかなと考えていました。孫さんは「1年以内ということはないけれど、10年はかからない。もしかしたら5年よりも短いかも」と語っています。
このインターネットマシン化は、iPhoneが出てこなくてもいずれ起きた進化だったのでしょう。しかし、iPhoneがいきなり出てくれたおかげで、遠回りをせずにいきなり高いレベルでの競争が始まった。これは日本のケータイ業界にとってすごくいいことだと思います。
ソフトバンクは音声端末がインターネットマシンに変わると予想している
── iPhoneを機に、国産インターネットマシンは充実しますか？
林 そこに至る前の課題として、まずドコモやKDDIはメーカーの開発体制を変える必要があると思います。
これまでのやり方を捨てて、もう1度、自分たちの会社のブランドの強みはどこにあるのか、自社の製品の特徴って何なのかということを考える。そして、自分たちの会社だからできるケータイを、社運をかけ、全力を尽くして、命がけで作っていく必要があるのではないでしょうか。
何せケータイはユーザーにとって唯一の「1人1台肌身離さず」使うデバイスだし、この分野を取ることは本当に大きいと思う。日本人にはiPhoneはクオリティーが低い、と思っている人も大勢います。もし、本当にそうなら、逆に端末メーカーにとってはいいニュースでしょう。日本メーカーの意地を見せて、ちゃんと消費者に素晴らしさが伝わる形、消費者の楽しさを広げ、生活を豊かにする形に昇華して製品化してほしいと思います。
※後編に続く
筆者紹介──林信行
フリーランスITジャーナリスト。「iPhoneショック
