このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第27回

「フェイル政府」のススメ

2008年07月29日 11時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

間違いを許さない「電波社会主義」


 この失敗には、政府も責任がある。モバイル放送会社はビジネスとして困難なため休眠状態だったが、総務省がSバンドを確保するために衛星の打ち上げを推進し、周波数を東芝に一本化して割り当て、いわば「国策会社」として韓国と共同で衛星を打ち上げたのだ。

 しかし日本で、民間の衛星放送ビジネスが黒字になったケースはほとんどない。WOWOWやスカパーと同じように、モバHO!が赤字経営に追い込まれることは予想されたはずだ。それなのに政府は、失敗した場合の対策を考えず、結果として「死に体」のままモバHO!は営業を続け、25MHzの電波を浪費してきた。

 私もメディアのビジネスに長くかかわってきたが、この世界は99%のビジネスが失敗する。コンテンツは市場予測が困難だからである。ところが電波行政は、いまだに政府が用途と技術と免許人を決めて割り当てる電波社会主義が続いている。失敗すると政府が責任を負うため、失敗を認めないのでいつまでも事業の転換が進まない。おかげで日本の電波の90%以上は、割り当てられただけで使われていない。



失敗を想定した制度設計を


 今後も、こういう失敗は何度も起こるだろう。急速に変化するデジタル・コンテンツの世界で、何が主流になるかは誰にもわからない。IT産業では、失敗は当たり前であり、それは恥でもなければ、未然に防止すべきことでもない。むしろ失敗した企業はすみやかに退場し、次の挑戦者にチャンスを与える柔軟な仕組みが必要だ。例えば電波を周波数オークションで割り当てて転売自由にすれば、失敗した場合でも他の用途に転用できる。実は2.6GHz帯は、去年モバイルWiMAXなどに割り当てられた2.5GHz帯の隣なのだ。

 原子炉などの安全設計に、フェイルセーフという考え方がある。オペレーターの失敗を絶対に許さないという設計では、万が一のときに危険なので、失敗しても破局的な事態に至らないように対策を講じるということだ。電波行政に限らず、日本の行政は完璧主義のあまり、失敗した場合の対策を何も考えていないことが多い。今後は、特にIT産業では、失敗を想定した制度設計、いわば「フェイル政府」の発想が必要ではないか。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。



■関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン