月刊アスキー 2008年9月号掲載記事
松下電器産業の社内ベンチャー制度によって設立されたファンコムは5月7日、身体障害者でも簡単に音楽が楽しめるSDオーディオコントローラ「レッツ・サウンド」を発売した。これは、パナソニックのMP3プレーヤ「D-snap」を直接差し込んで使用する専用コントローラで、身体障害者/高齢者向けの生活支援機器を開発・販売する同社ならではのこだわりが随所にみられる。
2003年に設立されたファンコムの第1弾製品は、身体が不自由かつ言葉を喋れない人たちが自分の意思を文章で伝えるための会話補助装置「レッツ・チャット」。2~3万台といわれる会話補助装置の市場でこれまでに1500台以上を販売した。「この製品を開発することで、身体障害者の方が入力する際の間の取り方や光の点滅のさせ方など、さまざまなノウハウを得ることができた」(同社松尾光晴社長)。
今回のレッツ・サウンドはそのノウハウを活かしたつくりとなっている。5つの操作ボタンは大きめでクリック感があり、入力の確認を音と光で知らせる。また、ボタンそれぞれにド・レ・ミ・ファ・ソの音を当てはめることで、目の不自由な人でも音を頼りに操作できるよう工夫されている。ボタンの押し分けが困難であれば、外部スイッチでプレーヤの操作を行うことも可能だ。また、多くのMP3プレーヤは記憶媒体が内蔵されているため、曲の登録を行う際には音楽データをためている自宅パソコンと接続する必要があり、使用者はいったんプレーヤを介護者に預けなくてはならないが、D-snapならば介護者が別のSDメモリーカードに曲を入れて差し替えてもらうことで対応できる。
同社では今後もレッツ・サウンド同様、既存製品を拡張するかたちでの身体障害者/高齢者向け製品を開発する予定。「松下電器産業の理念として、“家電が人々の生活を豊かにする”というものがありますが、我々は(その家電を)これまで使いたくても使えなかった身体障害者や高齢者をサポートしていきたい」(松尾社長)。
同社が推し進める“家電のユーザビリティを向上させる拡張キットの開発”は、高齢化社会を迎える日本において、新たなビジネスチャンスを見据えたアプローチといえるのではないだろうか。