月刊アスキー 2008年9月号掲載記事
小田急線「成城学園前駅」の西口から徒歩1分。世田谷の瀟洒な住宅街に5000平方メートルもの農地が広がる。ここは小田急電鉄が昨年5月に開業した会員制の貸し菜園「アグリス成城」。地元住民や沿線の住民はもちろん、都心からも電車を乗り継ぎ、畑を耕しにやってくる。
実はこの菜園、線路の上の敷地を利用しているのだ。
小田急電鉄がこの事業を手掛けるきっかけは、遊休地の有効活用だったという。同社は2004年に成城学園前駅付近の複々線化を行い、ホームを地下に移設した。その際、騒音対策のために地下の線路にコンクリートでふたをした結果、人工の地盤ができあがった。当初、この人工地盤の活用策として、フットサル専用の競技場や商業施設の建設などが検討されたが、街との調和を考えたところ会員制の菜園にたどり着いたという。
会員に貸し出している農地の1区画の広さは約6平方メートル。例えば、世田谷区が運営している近隣の市民農園は1区画が約15平方メートルで、それに比べると狭い印象はぬぐえない。もっとも、アグリス成城の宮城佳明マネージャーは「やはり、農作業は重労働なので、無理なく続けられる広さだと思います」と語る。また、利用料は年間13万6500円と安くはないが、農具・長靴などは無料で借りられるほか、スタッフが菜園に常駐しており、気軽に相談に応じてくれるため、サービスは充実している。昨年利用した会員の70%が再度契約をしており、利用者の満足度の高さがうかがえる。
アグリス成城では、貸し菜園を307区画用意している。すでに半数が埋まっており、「昨年よりも 着実に契約者は増えています」(宮城マネージャー)という。「食の安全性」や「穀物価格の高騰」など、我々の“食”を取り巻く環境は深刻さを増すばかり。だからといって明日から自給自足はできないが、レジャー感覚で農業を始めることは可能だ。
楽しみながら食べ物や環境問題のことを考えるのも、エコ活動のひとつではないだろうか。