塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第11回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
前進を続けるカルチャー
2008年08月03日 15時00分更新
確かに交通量が増えた社会では、信号機のような「第三者」によって流れを「規制」するほうが、安全で効率的。しかし、「道は前進するためにある」を常とする社会において、道で停止させられるのはいわば例外的な状態だ。当然、その例外的状態を少しでも減らし、交通を流れやすくしようとする社会的力が働くことになる。
そこで、RTOR。たとえ信号が赤であっても、周囲の交通に支障をきたさない限り交差点に進入しても問題なかろうというわけだ。RTORは、赤信号の登場で生み出された強制的停止という例外的状況を、秩序に影響しない範囲で原則に引き戻す作用だったのである。
19世紀後半、西へ西へと進んだ「フロンティア」の終点にあたる西海岸の社会では、「前進を続ける」ことへの社会的要請がそれほどまでに大きいということだろう。そして現代、その針路はインターネットへと向けられた。「道は前進するためにある」という大前提を基礎に、無限の道をバーチャルな世界に延ばし、ルールを変えてRTORを生み出すほどの圧倒的な力で前進を続けている。
かように、ウェブは前進するカルチャーで成り立っている。決して静的な「場」ではない。変化と進歩を続ける「道」がどこまでも続くダイナミックな社会なのだ。だから、境界のないインターネットでは望むと望まないとにかかわらず、我々もその道を歩み続けるほかはない。
クールなサイトをiWebで作ってMobileMe( .Mac)にアップする、写真や画像をflickrでシェアする、ブログを書く、面白い映像をiMovieで編集してYouTubeなどに公開する、自分のアイディアで新たなウェブサービスを立ち上げる……。これらはすべて、現代的なウェブの使い方である。
とはいえ、より本質的なのは、それらを「続ける」こと、そして自らダイナミックに変化し続けることだ。昨日と違う今日、今日と違う明日の自分を表現に投影し、進歩と前進を続ける力を互いに与え合うことこそ、米国西海岸のカルチャーを基礎とするウェブの神髄なのである。
筆者紹介─塩澤一洋
「難しいことをやさしくするのが学者の役目、それを面白くするのが教師の役目」がモットーの成蹊大学法学部教授。専門は民法や著作権法などの法律学。表現を追求する過程でMacと出会い、六法全書とともに欠かせぬツールに。2年間、アップルのお膝元であるシリコンバレーに滞在。アップルを生で感じた経験などを生かして、現在の「大公開時代」を説く。
(MacPeople 2007年5月号より転載)
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