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ジェネラルパーパス・テクノロジー(後編)

大企業の消滅で、日本は生き残れる──野口悠紀雄が語る

2008年07月22日 11時00分更新

文● 遠藤諭、語り●野口悠紀雄、撮影●パシャ

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日本ではITを敵とみなす人が多い。しかし、見方だと考え生かさないといけない

日本は「ITは敵だ」と思っている人が非常に多い


── 最後に、近著の「ジェネラルパーパス・テクノロジー」に関してですが、誰に読んで欲しいですか?

野口 まずは経営者です。経営者は、ITの細かいことを知っている必要はないけれど、ITとは何かという基本は知っている必要がある。とくに、ITは文献的・分散的な情報処理システムだということが、分かるかどうかが重要です。実際に企業を変えてゆくのは、中堅の人たちですね。その人たちは、かなり偉くなってしまってからITが出てきた世代に属しています。したがって、ITに対して違和感というか、敵対心を持っている人が多い。そういう人たちにも、ぜひ読んで欲しいと思います。

 ITに対して敵対心を持つかどうか。これが重要です。私は、それを「側理論」と呼んでいるのですが、ITは「自分の味方」なのか、それとも「敵」なのか? どちらと考える人が多いかで、日本社会がITに適応できるかどうかが決まります。私自身は「ITは私の味方」だと思っています。大組織にいる人に比べて、私は、いままで情報処理において圧倒的に不利だった。それは、有能な部下を使えないとか、大型コンピューターを自由に使えないとかいうことのためです。しかし、そうした格差が、ITの進歩によって、まことに有り難いことに縮小した。いまは、大組織内にいる人に比べてあまり差がない。だからこそ、ITの進歩を有り難いと思っています。

 ITのありがたさが分かるというのは、私のジェネレーションの特殊性でもありますね。なぜなら、若い頃に計算でさんざん苦労したからです。逆行列の計算を手回し計算機でやっていたのですから。大型コンピューターを使えるようになっても、それを使うのは大変面倒なことでした。それと同じことを自分の机の上で出来るというのは、本当に夢のようなことです。

 そのことを最初に感じたのは、1972年に登場したプログム電卓HP-35ですね。あれは、本物のフォンノイマン型コンピューターでした。そしてPCが使えるようになった。私がやっているファイナンスの分野では、いままでは多くの理論が机上の空論でした。理論はあっても、実際に計算は出来なかったのです。それが、いまではPCで計算できる。なんと素晴らしい世界になったのだろうと、考えざるをえません。私は、ITは自分の側にあるとつくづく思います。しかし、ITは敵だと思っている人が、日本では多いのではないでしょうか?

── そういう人に読んでもらわないといけないです。電力は敵だと思ったら負けるのは目に見えていますからね。このインタビューの最初の回で、日本の電子政府はアメリカのブラウン大学の評価では北朝鮮以下という話がありました。それは、技術力や予算というよりもITを自分の側に置くかどうかということだと思います。

野口 前に述べたイギリスの例で言うと、蒸気機関車の罐焚き手は、電力は敵だと思ったでしょうね。それで、技術の変化に抵抗した。いま日本の社会で、ITを敵だと思っている人は、非常に多いに違いない。

── 1980年代はとくにそうでしたね。メディアでPCが取り上げられるときは、だいたい「むつかしい」というような話で、あれが営々と書かれ続けたことによる社会的な損害は計り知れないと思うのですよ。

野口 いまでこそあまり言われなくなりましたが、「文章をパソコンで書くと品格がなくなる」とか「デジタル処理だから機械的になる」とか、よく言われました。しかし、ワープロを使っているときに、デジタルということはまったく意識しないですね。

── むしろ、書き直しするから柔軟になる。

野口 私は、文章を気楽に書き始めて、それを何百回も直します。「PCはデジタル処理で、0と1の機械的な世界」というのとは正反対の世界です。

── この本で、ITを自分の側に置いてもらえる人が増えるとよいのですが。

野口悠紀雄

 1940年東京生まれ。東京大学卒業後、1964年大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)取得。東京大学教授などを経て、現在早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。主著に「バブルの経済学」「戦後日本経済史」「円安バブル崩壊」などがある。

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