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キャリア・ピックアップ 第54回

インダストリアルデザイナーという仕事

カシオG'zOneのデザインが変わったワケ

2008年07月18日 04時00分更新

文● 大城祐

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最も行き詰まったこと

G'zOne W62CA

左からTYPE-R(A5513CA)、W42CA、W62CA。薄く進化していっているのが分かる

 インダストリアルデザイナーの仕事は、単にかっこいい外装を描けば終わりというものではない。機能や技術的な問題、実装するパーツとの整合性も考えてデザインを詰めて、製品の完成まで面倒を見なければならないのだ。今回は従来機種で搭載されなかったワンセグや、おサイフケータイ機能、Bluetooth通信機能などが入り、加速度センサーまで内蔵している。その上での薄型化である。実際に、機能や技術的なデザインの制約は多かったようだ。

「インダストリアルデザイナーの場合は芸術作品を作っているわけではありません。見栄えがいいだけでなく、製品の特色に合っているか、本体の凹凸には意味があるのかなど細部のデザインまで理に適っているかどうかが重要なのです。G'zOneシリーズでは『内部のプロテクション』というのが売りで、デザイン性にプロテクションの要素を融合していかなければなりません。ところが、デザイナーの主張と設計サイドの主張が食い違うことも少なくありません。それを解決するためには、外装にどのような素材のパーツを使うか、その材料だと希望通りの成型や塗装ができるのかという、デザインの領域と違ったことまで考える必要があります

 絵や図面が描けるだけでなく、金属やプラスチックなどの素材、メッキや塗装、電子部品に対する知識を広く持っていることが要求されるということだ。さらに、持っている知識を、どう製品に反映できるかも重要となる。これに関連したW62CA開発のエピソードがある。

G'zOne W62CA

ウレタンと、エラストマーを使った衝撃吸収用のバンパー部分。落下の衝撃から携帯電話を守る

一番行き詰まったのは、レシーバー部先端に位置する、衝撃吸収用のバンパー部分です。製品版ではウレタンと、エラストマーと呼ばれる固めのゴム素材を使っているのですが、最初はウレタン素材だけを使うつもりでいました。でも、それだとイメージに合った塗装ができない。デザイン性と機能の両立が難しくなったのです」

この一点をどうするかで、デザインと設計の部署との会議が紛糾し、しばらく止まってしまったほどだったという。

「そこでエラストマーを使って、レシーバー先端部分を囲い込むようにしたらどうかという提案を持ちかけました。このやり方なら、デザイン性とプロテクション機能の折り合いがつけられることができると思ったのです。試作してみると成功で、最終的に採用されました」

 そうしてできたのがW62CA。以前の機種で付いていた、張り出したバンパーがなくなったせいか、ワイルドさは影をひそめている。杉岡さんとしてはデザインのどこに注目して欲しいのか聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

実は視覚的な印象よりも、実際に握ってみて欲しいのです。親指の下の手のひらに当たる場所に丸みを付けたことで手に柔らかくフィットする点や、持ったときに中指が回る角の部分の微妙な張り出しが、バンパーの役割と同時に安定したグリップに一役買っているを感じてもらえるはずです」

(次ページ、「インダストリアルデザイナーに求められる能力」へ続く)

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