もうメディアの談合は通らない
しかし状況は変わり始めた。ダビング10という不合理な制度と、私的録音録画補償金という不合理な制度を抱き合わせにして、国会も通さないで「エンフォース」しようとした文化庁のもくろみは、当コラムなどウェブ世論の集中砲火を浴び、撤回せざるをえなかった。
そもそも全国民に受信制限やコピー制限を行なう制度が、法的根拠もなしにこうした業者間の談合で決められることが異常だ。しかも文化庁には電機製品を規制する権限はない(家電メーカーは経済産業省の管轄)。こうして官僚が個人的な人間関係を駆使して圧力団体や政治家との利害調整を行なって政策を決めるのが、これまでの霞ヶ関のやり方だった。
こんな法治国家のルールを無視したごり押しがこれまで通ってきたのは、マスメディアが権利強化を求める圧力団体の中心であるため、それに反対する意見を報道しない言論統制をしいてきたからだ。
マスメディアも説明責任を果たせ
ウェブは、こうしたメディアの力関係を変えた。私は毎年、学部の授業で学生に「どのメディアを毎日見ているか?」と挙手させるが、今年は新聞は1割以下、テレビは半分弱、そして携帯がほぼ100%だ。少なくとも若い世代にとっては、第一のメディアは(携帯を含む)ウェブであり、新聞はほとんどミニコミのようなものだ。
メディアは民主主義をチェックし、それが健全に機能する上で重要な役割を果たすが、日本では新聞社とテレビ局が系列関係になっているため、地デジやB-CASのような官製談合が堂々とまかり通ってきた。政治家も、テレビにボイコットされるのを恐れて批判しなかった。
しかしウェブによって、力関係は大きく変わった。毎日新聞は、こうした地殻変動の最初の犠牲者にすぎない。メディアが説明責任を果たさないと、これからも広告のボイコットや消費者集団訴訟などによってメディアを追及する動きが出てくるだろう。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
この連載の記事
-
最終回
トピックス
日本のITはなぜ終わったのか -
第144回
トピックス
電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ -
第143回
トピックス
グーグルを動かしたスマートフォンの「特許バブル」 -
第142回
トピックス
アナログ放送終了はテレビの終わりの始まり -
第141回
トピックス
ソフトバンクは補助金ビジネスではなく電力自由化をめざせ -
第140回
トピックス
ビル・ゲイツのねらう原子力のイノベーション -
第139回
トピックス
電力産業は「第二のブロードバンド」になるか -
第138回
トピックス
原発事故で迷走する政府の情報管理 -
第137回
トピックス
大震災でわかった旧メディアと新メディアの使い道 -
第136回
トピックス
拝啓 NHK会長様 -
第135回
トピックス
新卒一括採用が「ITゼネコン構造」を生む - この連載の一覧へ