日本のネット社会に合った「ニコニ・コモンズ」
── ニコニ・コモンズについては、どう考えますか?
津田 ニコニ・コモンズのいちばん面白いところは、途中からライセンスを変更できる点だと思うんです。
海外から持ち込んだ著作権の利用ルール「クリエイティブ・コモンズ」がいまいち日本に馴染みにくいのは、著作権者を必ず表示しなければいけないという点がネックになっていました。
一方、ニコニ・コモンズでは、著作権者の表示はそんなに重視されていません。日本のネットコミュニティー、いわゆる「UGC」(ユーザー生成コンテンツ)のコミュニティーは、著者表記ではなく、非営利であることに強くこだわりを持っている。その辺の実態に合わせたライセンスを作ろうというのが、ニコニ・コモンズです。
しかもニコニ・コモンズでは、「商業的にもいけるかも」という素材が出てきたら、作者が「無償」を「有償」に変えられるという、デジタル時代ならではの柔軟なライセンス形態を採用している。どれだけ普及するかは分かりませんが、個人的には、新しい著作権、新しいコンテンツのありかたとして有効に機能してくれればと期待してます。
ただ、「アクセスが増えてきたらあとで突然料金取るよ」みたいなこともできるわけで、サブマリン特許のような問題に発展する懸念もありますよね。だから、クリエイティブ・コモンズのようなライセンスというより、ガイドラインに近い部分もあって、そういう曖昧なものにあえて「コモンズ」と名付けるあたりは、うまいなーと思います。
── ニコニコ動画は、削した動画に、その削除を依頼した権利者名を表示する機能を実装しました。これについてはどう考えますか?
津田 分かりやすくていいじゃないですか。単に「権利者の要請で削除されました」じゃなくて、権利者名まではっきり表示されることで、その動画に対して誰が削除を依頼したかが可視化される。これはとても重要なことだと思います。
つまり可視化されることで、誰がどのように権利を持っているのかということが分かるんです。極端な話、ユーザーは削除された動画を見て、その権利者に連絡して直接交渉するってことだってできます。
権利がどう握られていて、どういう人が文句を付けているかというのが明らかになるのは、権利ビジネスがどう動いているのか、著作権の啓蒙をする意味でも大切なことだと思います。僕は大賛成ですね。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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