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【ASCII.jpまとめ】ダビング10

ダビング10が迷走した4年間

2008年07月03日 11時00分更新

文● 谷分章優/MIAU事務局長、広田稔/トレンド編集部

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4.最新動向


年月日 出来事
6月13日 総務省、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委)の第39回会合が開かれる(配布資料)。

デジコン委下に設けられたフォローアップワーキングの主査から、ダビング10合意の前提について、権利者委員、メーカー委員らの合意を得ていないとの報告がなされる。一方、デジコン委の主査は、デジコン委でいずれ合意にいたることができるとの展望を披露。第4次中間答申の前提自体について委員からの異議が今も無いことを理由に、今後の第5次答申をまとめることに意欲を示していた。
6月16日 「CULTURE FIRST」を掲げる「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」(権利者会議)がJEITAに対して、2007年11月9日に送付した公開質問状の回答をまだ受け取っていないとして再度公開質問状を送付。回答期限は6月23日。JEITAが5月30日に公表した見解に反論するなど、権利者側の主張をより強く押し出した内容となっている。
6月17日 文部科学省と経済産業省との間で、私的録音録画補償金の扱いについて暫定的な合意に至る。閣議決定の後での大臣会見で明らかにされた

内容は、Blu-rayの録画機器とメディアに補償金を課して、iPodなどのHDD内蔵型機器については現在のところ見送るというもの。しかし文化庁(私的録音録画小委員会)での議論は継続して行なうこととされているらしく、HDD内蔵型に課金される可能性がなくなったわけではない。
ダビング10と補償金をめぐる文部科学省、経済産業省の合意について、権利者会議が声明を発表

「権利者がそのプロセスを承知」していないため、「権利者としてはこの合意を以って、ダビング10の実施期日の確定ができるものとは考えてはいません」と述べる。権利者側の不満は声明のあちこちで見られ、「Blu-rayディスクの指定がデジタル放送に着目したものであるか明確でない」「文化庁が提案している補償金制度の枠組みに関する今後の取扱いが明確でない」「現行法でのBlu-rayディスクの指定が『権利者への適正な対価の還元』に当たるかどうかについては、はなはだ疑問」としている。
6月19日 総務省、デジコン委の第40回会合が開かれる。この会合で第5次中間答申の骨子を決める予定であったが、骨子案のダビング10関連のページが空白のまま審議にかけられるという異常事態となった。

 この日の会合でも、フォローアップワーキングで合意に至らなかった旨が報告された。事務局は文部科学省と経済産業省の合意について紹介したが、権利者がこれに真っ向から反対する意見を述べて、会合の終盤まで膠着状態だった。しかし権利者側から、ダビング10の議論と補償金との議論を切り離し、デジコン委で期日を先に決めることを提案。この発言をきっかけに、一気に期日を「7月5日をターゲットに」決定する運びとなった。
6月23日 Dpaが、ダビング10の開始日時について「2006年7月4日午前4時」と発表する。


補足:最新事情を読み解く



●ダビング10の開始決定で何が変わった?


 ここ数年、著作者団体とJEITAは、コピー制御の内容、私的録音録画補償金(補償金)の対象について意見を対立させてきた。今回、コピーワンスをダビング10に変更し、その開始日が7月4日に決まった経緯で、何が変わって何が変わらなかったか。

 変わったのは、まず著作者団体が今後、ダビング10のタイムリミットを持ち出して、HDDレコーダーなどを補償金の対象に加えるという取り引きができなくなったということ。

 もうひとつ、デジタル機器によってクリエーターが損失した利益を、補償金ではなく別の手段で還元するという可能性を著作者団体が示したことも興味深い。著作者団体は、ダビング10の期日決定にあたって情報通信審議会に2つの条件を求めていた。

  1. 補償金問題の合意形成の努力に向けて、情報通信審議会としてもサポートすること
  2. 第4次中間答申での「クリエイターへの適正な対価の還元」について、情報通信審議会でも具体化の方法を考えること

 もちろん他の手段が見つからずに「やはり補償金で還元を」という結論もあり得る。ただ補償金以外の解決も模索し始めたという点では期日決定を促したのに加えて、評価すべき点ではないかと考えられる。

 一方で、変わらなかったのは、補償金の対象については引き続き議論が交わされるということ。総務省のデジコン委におけるダビング10の議論がひと段落して、今度は補償金問題を話し合う文化庁の場(私的録音録画小委員会)へとボールが回された形である。しかし小委員会の次回会合を延期し続ける状態が続き、ようやく7月10日に第3回会合が開かれる運びになったものの今後の展開は先が見えない状態のままだ。


●総務省の話し合いに、なぜ文科省と経産省が?

 ダビング10は、当初の予定であった6月2日を過ぎても始まらず、総務省で議論が膠着していた。しかし6月17日、文部科学省(文科省)と経済産業省(経産省)が、補償金について、Blu-rayの機器/メディアに課金して、HDD内蔵機は見送るという暫定合意を打ち出したことによって、状況が一変した。

 経産省でこの発表を行なった経済産業大臣(甘利明氏)は、「合意がダビング10の早期実施に向けた環境整備の一助となることを期待」とコメント。その後、2省の動きが影響を与えて、総務省のデジコン委でダビング10の開始日が決まっている。

 なぜ総務省の話し合いに、文科省と経産省が首を突っ込んだかと言えば、3省のいずれもがダビング10や補償金の問題に関わっていて利害関係にあったからだ。

省庁 立場
総務省 放送業界を所管する立場。ダビング10のメインの議論の場だったことに加えて、2011年のアナログ停波へ向けて、地上デジタル放送用機器の普及を妨げる不安要因を取り除いておきたいという意図があった
文科省 文科省の外局(特別機関)である文化庁が、権利者団体を所管。また、補償金問題について議論する私的録音録画小委員会も擁している
経産省 JEITAなど、家電業界を所管している。加えて、コンテンツ産業の経済的発展をも考えねばならない立場にある

 構図としては「子供の喧嘩に親が出た」形だ。文科省と経産省の話し合いを、総務省がタイムリミットを見据え調整を行ないつつ、それを見守ってきたということになる。最終的には19日のデジコン委にて、権利者団体が「補償金とダビング10の問題を切り離して期日を先に決めよう」と提案したことがきっかけで話がまとまった。

 総務省は、基本的にダビング10開始への道筋ができれば、補償金は管轄外なので、2省の合意内容には関与しないだろう。経産省は、本当は補償金を廃止したかったJEITAの意向を汲みつつ、Blu-rayディスクのみ課金という形に落とし込めた。

 それらに引き替え、Blu-rayはもちろん、HDDやフラッシュメモリーなども課金する方向で動いていた文化庁にとっては、とんだ横槍が入ってしまったというところだろう。文化庁では今後、HDD内蔵型に課金するかどうかの議論を継続していく予定だが、もしかしたらその場でも存在感を増した経産省の様子をうかがいながら議論を進めていくことになるのかもしれない。

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