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「WWDC 2008」総括(その4)

iPhone「App Store」の秘めたる可能性

2008年06月30日 11時00分更新

文● トレンド編集部、語り●林信行

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iPhone用アプリは自由度が低い?


── そういえば、iPhoneについて池田信夫氏が「iPhoneはアップルの許可がないと外部アプリケーションを端末に乗せられないため、ベンチャー企業にはオープンなBlackberryのほうが人気が高い」という指摘をしています(関連記事)。これについてはどう思われますか?

 iPhoneの開発者は、秘密保持契約の関係で、まだ表立ってアナウンスをしていない人達がほとんどです。実際にBlackberryの方が人気が高いかどうかはWWDCに参加してその熱狂ぶりを見ていない人には分からないと思います。ただ、Blackberryのほうがオープンというのはその通りでしょうね。でも、要するに、自由度を求めるか、より質の高いビジネスチャンスを求めるかという話しなんじゃないでしょうか?

Blackberry

Blackberry

 シンビアンなどを含めたスマートフォンのアプリケーションは、これまでそこかしこでバラバラに配られていたわけです。それに比べてiPhone用アプリは、最初のハードルが高いかもしれないけど、売ることが決まればきれいにApp Storeの画面に並べられて、それで手厚く紹介してくれる。

 量販店でパソコン用ソフトの棚にところ狭しとソフトが詰め込まれているソフトと、Apple Storeで少し余裕のある棚にきれいに箱が並べられているソフト。そういう違いを感じます。


── アップルのチェックを受けるとなると、ソフト自体の数は少なくなりそうですが……

 これは明らかに多いほうがいいでしょうね。昔は「MacはWindowsに比べてソフトが少ない」ということを指摘する人が多かった。でも、実はほとんどのMacユーザーは、ソフトの少なさを問題にしていない。確かになくて困るものもあるにはありますが、ほとんどの用途は今あるMac用ソフトだけでこと足りてしまう。

 ソフトが少ないということは、むしろユーザーの選択を簡単にしてくれている。しかも、Macのソフトビジネス、とくにApple Storeの棚に置かれるというのはかなり条件も審査も厳しいけれど、一度、そこまで極めているソフトはユーザーもそれなりに安心して買える。

 質の低いものも混じった「玉石混淆」状態でソフトがたくさんあるのと、審査が厳しいがゆえに一定の質を保ったものが少し用意されるのとでどちらがいいかといえば、無類のパソコンマニアの方はともかく、パソコンや機械が苦手だったり、あまりこだわりがない一般の消費者にとってみれば後者だと思います。

Apple Store

Apple Storeでは、余裕を持たせて商品を陳列している(写真は心斎橋店のもの)


── 大半の人は、数あるソフトの中から苦労して自分に合ったものを見つけ出すより、最初から「一番のお勧め」を提案してくれたほうが嬉しいでしょうね。

 開発者視点で考えても、もしかしたら長期的にみれば、後者のほうがいいのかもしれませんよ。いい仕事をすれば、より競合の少ない環境でしっかりと商品を売ってもらえるわけですから。

 これはソフトだけの話ではなくて、アップルのもの作りや、アップル製品の生態系全体に共通していることかもしれません。やるからには、とことんいいものを生み出す。そしていい仕事をして作ったからには、売るときにも一切手を抜かない

 ただ、iPhoneのビジネスは、アップルが何から何まですべて管理できるわけではなく、ある程度はケータイ事業者に頼らざるを得ない。iPhoneの体験を最良のものにするためには、ケータイ事業者にもこの発想を共有してもらわなければならないんです。

 ソフトバンクの方には、ぜひiPhoneが正式発売になる7月11日までに、iPhoneの裏面と同じようななめらかでツギハギのない、すっきりとした潔く美しい料金プラン表示を実践してほしいと思います。


筆者紹介──林信行


 フリーランスITジャーナリスト。「iPhoneショック」(日経BP刊)の筆者。大学や企業で講演をしたり、製品/技術開発のブレインストーミングに参加することも多く、製品コンサルタントとしての顔も持つ。ジャーナリストとしては、デジタル技術によって変わる人々のライフスタイルやワークスタイルに大きな関心を持つ。ハード、ソフト、ウェブの技術だけでなく、アートやデザイン、コンシューマーやIT系企業の文化についても取材/執筆活動をしている。「MACPOWER」「MacPeople」元アドバイザー。近著は「スティーブ・ジョブズ ー偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡」(アスキー刊)、「アップルの法則」(青春出版社)、「アップルとグーグル」(インプレスR&D社)など。自身のブログは「nobilog2」。


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