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キャリア・ピックアップ 第49回

ニコンD3を作った“コンセプター”の隠れた手腕

2008年06月27日 04時00分更新

文● 鮎川哲也(大空出版)

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発売時期と開発時期のテクノロジーのズレを埋めるには

 発売より1年以上前に、「D3」のアウトラインと基本設計はまとまっていたという。しかし、その時点と発売時期とではテクノロジーに関する状況は変わってくる。その時点のベストは、発売時点のベストではないのではないだろうか。

「確かにデジタルをめぐる状況は、変化が激しいものです。ですから、私たちも発売時期の技術の進展とライバル社の動きを予測して、製品に反映させなければなりません。開発時点では製品化が難しい技術でも、必要だと判断した技術に関しては、技術者に本気で実現を目指してがんばってもらう必要があります」

 フラッグシップモデルだからこそ、最高の性能が求められる。しかし、単純に性能が高ければいいというものではない。性能とコスト、市場要望などのバランスをとり、発売時点での適正な性能に仕上げることが大切になるのだ。「D3」では、その適正をどのように見極めたのだろうか。

「例えば、ニコンはこれまでFXフォーマットを採用していませんでした。もちろん単純にFXフォーマットのカメラを作ることだけならできたでしょう。しかし、安価で小型なDXフォーマットに対する、FXフォーマットの優位性を生かす技術が未熟だったり、当時のコスト状況では価格も高くなり過ぎたりしていました。そこで、総合的なユーザベネフィット(ユーザの利益)の観点から、採用を見合わせていたのです。今回は各種の関連技術も熟成し、コストも抑えられるようになったので、『D3』への採用に踏み切りました」

 どんな機能やスペックを持たせるかの判断は、どのように下しているのだろうか。

「一人よがりにならにように、プロの顧客や社内の撮影経験豊富な人の意見など、いろいろな方面からの情報や意見をもとに判断しています。それらの人たちは、カメラ撮影に関して真剣で豊富かつ最新の経験値をふんだんに持っています。なので、とても参考になりますね。そして、自分の中に蓄積したユーザや購入者としての経験や感覚にも、個人的趣味に走らないように注意しながら、照らし合わせています。これらの意見や情報から、コンセプトに対して適正と考えられる機能やスペックを判断していますね」

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