根強い「ドコモでないのが残念」という声
── iPhoneといえば、NTTドコモが20日に開いた記者会見で「引き続きiPhoneの発売を目指す」とコメントしたそうですね。
林 私は行けませんでしたが、ニュースは読みました。やはりドコモはまだiPhoneをあきらめていないようですね。私はiPhoneの書籍やアップルの記事を書いているため、友人からiPhone関連のトピックを振られることが多いですが、その際、よく耳にするのは「ドコモでないのが残念」という言葉です。
ソフトバンクが2005年にボーダフォンの日本法人を買収して、社名やサービス名を変えるというニュースが流れた際、「ソフトバンクなんていう名前は絶対に嫌だ」という人が少なからずいました。しかしその後、ケータイにiPodをバンドルしたり、PANTONEカラーに代表される魅力的な端末を発表したり、さらにブラッド・ピッドやキャメロン・ディアスのCMをじゃんじゃん流したことで、ソフトバンクの印象は短期間でものすごく変わった。
私はあの短期間でこれほど大きくブランドイメージを変えられたのはビジネス史に残る出来事ではないかと思っていますし、個人的にはソフトバンクモバイルという企業が好きです。
でも、そうした状況にも関わらず、「やはりキャリアはドコモ」と考えているサイレントマジョリティーがいるわけです。彼らは、ソフトバンクがものすごくいい仕事をしても、やはりドコモ以外に流れることはない。
だから、アップルも「最初の話題作りをするぶんにはソフトバンクと組むけど、いつかはより多くのユーザーを獲得するためにドコモと組む必要がでてくる」と考えていると思います。同時にソフトバンクにとっては、そういう人達をどう説得して取り込むかが大きな課題でしょう。多分これまでのやり方だけでは通じないと思います。
── ドコモユーザーは、ソフトバンクのどこが嫌いなんでしょうか?
林 どこが嫌いとかそういうのはなくて、ただドコモが安心なんじゃないかと思います。動かざるドコモユーザーの中でも、本当に携帯に詳しい人がよく言うのは、ソフトバンクは電波の受信感度が悪いという問題です。
これは確かにその通りで、私もドコモ、au、ソフトバンク、イー・モバイルの端末を使っていますが、日本国内にいる限りソフトバンクがいちばん電波の入りが悪い印象があります。
話をドコモに戻すと、これでソフトバンクが日本におけるiPhoneの本体価格や料金プランの基準を作ってくれたので、アップルもドコモとの契約を進めやすくなったはずです。私は、今でもアップルがドコモと組む可能性はあると思っています。
アップル的にはドコモと組みたい気はあるけれど、ドコモではどんな提案をしても「それでは持ち帰って社で検討させていただきます」という流れになって、話しがなかなか先に進まない。
── ソフトバンクなら、孫さんと話を進めればいいので、シンプルですぐに意思決定できるという面はあるでしょうね。
林 ええ。WWDC前に即決で契約を結べる会社ということで、ソフトバンクのほうに分があったわけです。だから今回の契約の裏には、NTTドコモではなかなかできない、意思決定の部分をソフトバンクにアウトソーシングするような狙いがあったのではと予測しています。一度、ライバルが標準を作ってしまえば、そこから相対思考で、価格を考えるのはあまり時間がかかりませんから。
※その4に続く
筆者紹介──林信行
フリーランスITジャーナリスト。「iPhoneショック」(日経BP刊)の筆者。大学や企業で講演をしたり、製品/技術開発のブレインストーミングに参加することも多く、製品コンサルタントとしての顔も持つ。ジャーナリストとしては、デジタル技術によって変わる人々のライフスタイルやワークスタイルに大きな関心を持つ。ハード、ソフト、ウェブの技術だけでなく、アートやデザイン、コンシューマーやIT系企業の文化についても取材/執筆活動をしている。「MACPOWER」「MacPeople」元アドバイザー。近著は「スティーブ・ジョブズ ー偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡」(アスキー刊)、「アップルの法則」(青春出版社)、「アップルとグーグル」(インプレスR&D社)など。自身のブログは「nobilog2」。