クレーターを人工的に作り出す
松井研究室には世界でも珍しいクレーターを作る実験装置がある。密閉したシリンダーの底にガラス粒の砂を敷き詰め、そこに試料で作った弾丸を撃ち込む。すると
「クレーターができるわけですよ」と松井教授。
「高速カメラで詳細を撮影するわけだ。それを分析して、クレーターがどういうプロセスを経て作られるか、再現して調べるのがこの装置」
それらの装置を使い、新たな事実が分かったという。
「ユカタン半島のような隕石の衝突が起きると一酸化炭素や酸化した硫黄のガスがたくさん出ることがわかったんです。今の環境問題にもつながるんですが、ものすごい量の一酸化炭素が作用して最終的にオゾンの形になり、それが地球の温度を急激に上げたり、二酸化硫黄がたくさん出ると酸性雨が降ったりといったことが、地球規模で起きることがだんだんわかってきたんです」
隕石の衝突を研究すると地球温暖化のことがわかるのである。つまり人間のやっていることは隕石なみということか。
実験の映像を見せてもらった。弾丸が衝突すると最初はズドッと深く弾丸がめり込むが、すぐに盛り上がり、月の表面のような浅く広いクレーターの形に変わった。
「ぶつかった瞬間にはトランジェントクレーターといって、流動的なプロセスが残っている時には深さが直径に対して5:2だとかの深いクレーターができるけれども、最終的に直径が広がって行く過程で浅くなっていく。圧力が高いから流体と同じように振る舞うんだ」
NHK「地球大紀行」をはじめテレビ出演は数限りなく、カール・セーガンと友達だったり、その縁でジョディ・フォスターが日本に来たときに会ったりと伝説の多い松井教授だが、今年で定年。宇宙と生命の謎に向き合う、寺田寅彦以来の正統なサイエンスを継いでいくのは松井研の若き博士たちである。