塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第9回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
世界の中心で“I”を叫ぶ
2008年07月20日 15時00分更新
最初に教える英語の原点 その特別な単語は何?
英語という言語において最も重要な単語は何か。これだけでは、そんな質問自体がナンセンスだという答えが聞こえてきそうなので、質問をちょっと変えよう。中学1年生に英語を初めて教えるとき、あなたならどの単語を最初に教えるか。Hello?、Please?、Yes?、Love?
英語は語彙が豊かな言語だ。オックスフォード英語辞典(OED)には60万語以上、メリアム・ウェブスター辞典には約47万語が収録されている。その中から最も重要な単語を選び出すことは極めて難しい。そもそも単語に優劣など付けがたい。でもそれを人に教えるとなったら、まさか47万語を一度に教えるわけにはいかないので、順序を付けざるを得ない。
実際、教育においては教える順序が極めて大切なのだ。といっても、やさしいこと、簡単なことから始めようというのでもない。教えようとする内容のうちで最も本質的なもの、最も核心的なことを最初に教えるのである。
たとえばチェスをまったく知らない人に説明をするとき、一番はじめに教えるべきことは何か。6種のピース(コマ)の役割? 各ピースの動かし方? 各種の戦法?
そうではない。ゲームの核心、すなわちチェスとは相手のキング(将棋でいう王将)を取るゲームだという究極の目的を最初に教えるのである。ルールも戦法も何も、すべてはその目的のために組み立てられているからだ。
チェスを始めたばかりの子どもは、時にそれを忘れて、取ったピースの多寡に一喜一憂したり、相手のピースを全部取ってやろうなどと考え、あらぬ方へコマを進めることがある。そういうときに指導者は、「チェスは何をするゲームだっけ?」と問いかける。すると、子どもはゲーム本来の目的を思い出し、軌道を修正できる。原点に回帰するのだ。
(次ページに続く)
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