塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第7回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
発達と発展
2008年07月06日 15時00分更新
著作物には思想や感情その他のアイデアが表現されている。そのためひとたび著作物が公開されれば、その背後にあるアイデアも人々に知られる。そもそも人は、自分の考えを誰かに伝えたくて何らかの表現をする。著作物に表現したアイデアは共有される宿命にあるのだ。
でも、同じアイデアを心に抱いても、人によってその表現の仕方は千差万別。ひとりひとり考え方も価値観も異なるから、ひとつのアイデアから無数の表現が生み出されるのだ。単純な例を考えてみても、例えば「愛は美しい」というひとつのアイデアから、幾多の楽曲、詩、小説、映画、戯曲、絵画、彫刻などが表現されていることは、枚挙にいとまがない。
もしアイデアを独占する権利を認めると、そのアイデアから生み出されるはずの無限の表現の芽をすべて摘んでしまうことになる。そればかりか、単に頭の中で考えることすら窮屈になってくる。憲法19条や21条に基づき、人々が自由に考え自由に表現することによって豊かな文化を育むことこそ、著作権法が描く創造的な社会だ。だから、著作権法はアイデアの独占を認めることはしない。その代わり、アイデアから生み出された個々の表現のほうを保護するのである。
では、独創的なアイデアを出せる人や企業は、それをどのように社会にアピールしていけばいいだろうか。技術的なアイデアは、プログラムも含め、要件さえ整えば特許を取得できるから、特許権で「守る」のも重要な戦略のひとつだ。でも、知的財産法制度が本質的に望むのは、もっと積極的なアプローチなのだ。この点、アップルのやり方は光っている。
'98年夏、最初に登場したiMacの印象は鮮烈だった。当時、事務機然としたコンピューターが多い中、鮮やかなボンダイブルーをまとった流線型のiMacは、それに続くカラーバリエーションと性能向上も相まって、コンピューターの購買層を広げていった。3年半後には自在に動くアームに液晶モニターを取り付け、それを白いお饅頭型の本体にマウントしたiMac G4に生まれ変わった。さらに2年半後の'04年夏には、現行の端正な薄い筐体へと進化した。これらのデザインには、他社のマネをものともしないアイデアが息づいている。
(次ページに続く)
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