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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第6回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

永遠のベータ

2008年06月29日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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 老若男女を問わず大人気の「mixi」。サービス開始から2年半にして会員数が500万人を超え、さらに増え続けているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だ。その成功の原因については諸々の見解が示されているが、ここで実現される「ゆるいつながり」が、ユーザーの求める人間関係にぴったりマッチしていることもその一因だろう。日本の社会は往々にして上下関係が先行するため、従来なかなか「ネットワーク」が築きにくかった。その点mixiは、紹介の連鎖という安心感を基礎に、人々が持つ「人とつながっていたい欲求」、いわばネットワーキング欲を満たす、格好のコミュニケーションツールなのだ。

 ところでこのmixi、実は今なお「ベータ・バージョン(β版)」のままだ。ベータ・バージョンとは元来、製品のテスト版のことを指す。ハードウェアやソフトウェアの開発プロセスにおいて、必要な機能が実装されてとりあえず形になった状態を「アルファ・バージョン(α版)」という。そこからさらに不具合を取り除くなどして、試用に堪える製品化一歩手前の状態まで進めたものがベータ・バージョンになる。これを限られた人々(ベータ・テスター)が繰り返しテストし、安定した最終製品にするための改良を加えていくのだ。

 ではmixiはそんなテスト版の状態なのだろうか。普通に使っている限り動作は安定していて、製品化の「手前」という状態は脱しているように思えるし、既に一部のサービスは有料で提供されている。何より数百万人のユーザーの多くは、「ベータ・テスト」を行っているという意識をまったく抱いていないはずだ。従って、これだけ普及しているサービスに付けられた「ベータ・バージョン」という言葉は、単なる「テスト版」とはいささか趣の異なる表現ととらえるほうが適切だろう。そうなると、このベータ・バージョンとはいったい何だろう。

 インターネットでは、mixiに限らず「ベータ・バージョン」のまま提供されているサービスは多い。たとえば日本でも利用者が多い無料のメールサービス「Gmail」は、既存ユーザーからの紹介なしで利用できるようになった現在も、依然としてベータ・バージョンだ。写真共有サイト「Flickr」は、ギリシャ文字でβに続く「ガンマ・バージョン(γ版)」を名乗っている。メンテナンスのために短期的にサービスが停止することはあっても、それぞれ基本的には安定したサービスを膨大なユーザーに対して提供し続けている。このような実態を鑑みると、いまや「ベータ」であるかどうかは、ソフトウェアの完成度とは切り離して考えるほうがベターかもしれない。市販のパッケージソフトウェアではなく、ウェブサービスではなおさらだ。


(次ページに続く)

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