今なら、まだ中心的役割を果たせる
今回の日本版iPhone発表にあたって「prediction.jp」というサイトを使って賭けを行なった(関連リンク)。NTTドコモとの提携を選んだ私は賭けに負けたが、この試みで驚いたのが、意外に多くの人が「日本版iPhoneは出ない」と賭けていたことだ。
実際にインターネットの声に目を向けたり、メーカーの人の話を聞くと「日本のケータイ事業者がアップルの条件を飲むわけがない」といった声をよく耳にして驚いた。
取材する立場で、キャリアの人と話をすると、「いい製品を獲得するためであれば喜んで変わる」という強い心意気を聞くことができる。
一方でいろいろなメーカーや、キャリアの人と話をすると「どうせ、こんなことを言ってもキャリアに突き返される」「却下される」と、話す前にあきらめてしまっていることが多い。
そうした心の壁を築いてしまうと、いつまでたっても「突き抜けた製品」を作ることはできない。もっと製品のアイデア出しや、開発作業のときには、制約を設けず自由闊達に話し合い、それが正しいと思うなら、自分を信じて、情熱を持って上司でも、キャリアでも説得に当たる。
今の日本のメーカーの方々には、そうした姿勢が少し足りない印象を受ける。
スティーブ・ジョブズは、iPhoneを発表したとき、「Apple reinvents the phone.」と語った。これからは日本の携帯電話も、大きく変わっていく。だが、その未来の携帯作りは、アップルとグーグルだけが担うものではない。
今なら、まだ日本のメーカーも中心的役割を果たせる。
iPhoneは、日本でもそこそこ売れるとは思うが、主流の製品になるには、まだ数年は必要だろう。それまでが勝負だ。
筆者紹介──林信行
フリーランスITジャーナリスト。「iPhoneショック」(日経BP刊)の筆者。大学や企業で講演をしたり、製品/技術開発のブレインストーミングに参加することも多く、製品コンサルタントとしての顔も持つ。ジャーナリストとしては、デジタル技術によって変わる人々のライフスタイルやワークスタイルに大きな関心を持つ。ハード、ソフト、ウェブの技術だけでなく、アートやデザイン、コンシューマーやIT系企業の文化についても取材/執筆活動をしている。「MACPOWER」「MacPeople」元アドバイザー。近著は「スティーブ・ジョブズ ー偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡」(アスキー刊)、「アップルの法則」(青春出版社)、「アップルとグーグル」(インプレスR&D社)など。自身のブログは「nobilog2」。