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キャリア・ピックアップ 第45回

ケンウッドのオーディオを支える音の親方

音質マイスターの“耳”と“手腕”

2008年06月05日 08時00分更新

文● 稲垣章(大空出版)

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“耳”だけでは、音質マイスターにはなれません

 音質マイスターになるという場合に、前ページで挙げたものは業務の経験値的なことでもあるだろう。では、素朴な疑問として、音質マイスターにとって必須な“いい音を聞き分けられる耳”はどうしたら持つことができるのだろうか。やっぱり素質って必要なのだろうか……。

「まず、“いい音”を判断できることより、“いい音”が何であるのかを周囲の人に尋ねることも大切です。製品を作るときに、差別化することは非常に重要なことです。でも孤立化してはいけない。ユーザや評論家、音響雑誌社の担当者などとコミュニケーションを取り、技術的にもユーザの趣向としても“今のいい音”が何か、話し合うことが大切です。それができないと孤立化に向かってしまいます。だから私が行なっていることは、まずユーザや評論家が“いい”という音を理解すること。その上で自分が培ってきた心の中にある音や音楽性、またテクノロジーや時代のトレンドといったものを考慮し、その製品に合った音作りのために技術的にどうすればいいのかを考えて、もの作りに反映させています。このように音質マイスターという職務にはコミュニケーション能力というものが非常に重要な要素となります」

 また“いい音”について話し合うためには、自分の中にしっかりとした基準を持たないといけない。この“耳作り”に関しては、これは自ら経験して作っていくしかないと萩原さんは語る。

「私は今、音のプレゼンテーションを行なうことを大切にしています。現在、1カ月に1回のペースで『音質マイスター講座』を弊社丸の内ショールームで行なっています。そこで、音作りについて、お客様にどう伝えられるか、また、どのような反応が返ってくるか、試練の場としています。自らの考えだけで“いい音”を探求していても“いい音”は作れません。自分が持っている“いい音”というものがあって、相手(聞き手)のニーズがある。そこにコラボレーションが生まれて、本当に“いい音の製品”ができあがると考えています」

 音質マイスターという仕事は、単に“いい音”を定めて、その製品を世の中に出していくのではなく、“いい音の製品”をユーザとともに作っていく先導者となるものなのだ。

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