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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第5回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

「マネ」の循環

2008年06月22日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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 ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」。ここにある「授業を受ける者」という文言は、近年の改正で挿入されたものだ。学校では、先生だけでなく生徒も、授業の過程で「マネ」をするという至極当然のことが、ようやく法律上も明文で認められたのである。

 NHKの教育番組には、マネが随所に盛り込まれている。幼児向けの「おかあさんといっしょ」では「まねっこピーナッツ!」というキャラクターのポーズをマネするコーナーが人気だ。語学番組の主眼はネイティブ・スピーカーの発音をマネするところにある。スポーツや楽器演奏を教える講座では、講師が手本を示して生徒がそれをマネするように番組が構成されている。マネしてもらうための良質な模範、モデル、型を提供することが、よき教育者の重要な役割だ。

 古今東西、およそなにごとにも「型」がある。長年の間に人々がワザを洗練させ、核となるエッセンスを抽出した「型」。柔道の投げ技、ピアノの運指、将棋の戦法、テニスのスイング……。理論や理屈は後回しにして、ともかく基本の型をひとつひとつマネして身につける。何度も何度も繰り返して型を体にしみ付けると、盤石な基礎が築かれる。このプロセスに時間をかけてしっかり行えば、その後の飛躍的成長が期待できる。

 型が身に付いたら次はその実践だ。練習試合で投げ技を使ってみたり、楽曲の演奏で効果的な運指を用いてみて、型の効用を確かめる。その過程で型に基づくワザを洗練させると同時に、型と型との連鎖を円滑にして、実用に堪えるワザにブラッシュアップしていく。そしてしまいに型が本当に自分のものとなってくると、学び得た型よりも自分らしさのほうが際立ってくる。さらに、型の組み合わせや変形を試み、自分なりのアレンジを加え、新たなワザを編み出す。こうしてオリジナリティーが濃くなっていく。「自分スタイル」の確立だ。


(次ページに続く)

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