塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第3回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
プラスを評価する社会
2008年06月08日 15時00分更新
プラスの評価が引き出す ひとりひとりのポテンシャル
人の成長は、プラスの積み重ねだ。生まれた直後の赤ん坊にできることといえば、呼吸して、お乳を飲んで、排泄することくらい。それから徐々にできることが増えていく。物をつかめるようになり、笑えるようになり、言葉を発し、立ち上がり……。ひとつひとつのプラスが、日々、親を喜ばせる。今までできなかったことがひとつできるようになるたびに、周りの大人が喜び、ほめる。それがさらに次のプラスを目指す原動力となる。プラスの積み重ねとそれをほめる周囲のフィードバックが、成長のスパイラルを増幅させるのだ。
親子以外の人間関係でも同じ。学校の先生やボランティア活動の指導者など、成長を見守る立場の人に求められるのは、その人のプラスを見つけ、上手にほめることだ。大人でも、たとえば会社の上司が部下のプラスをほめて成長を促せば、部署の業績向上も見込める。そして、何よりも大切なのは友人関係だ。友人同士でプラスを見つけ合えば、互いの能力を伸ばすことができる。
前回紹介した「show and tell」は、そんなプラスを評価し合う場だ。自分のお気に入りのモノにまつわる話を、クラスのみんなの前で語る。大好きな絵本、工夫して組み立てた模型、誕生日プレゼントのぬいぐるみ……。自分の大切なモノだから、子どもだって語ることはいくらでもある。自分が持っているプラスの蓄積を、自信を持って披露するのだ。それを先生や友人たちが周りから盛り上げる。話者を静かに注目し、ときには歓声を上げ、絶妙なタイミングで適切な質問をしてもっと面白い話を引き出す。先生はその質問もほめる。こうして、ショウ・アンド・テルの場が、互いのプラスを評価し合う空間となっていく。
ショウ・アンド・テルのエッセンスは、お互いの「いいところ探し」にある。「あら探し」の正反対だ。いいところ、長所、プラスを見つけてそれを評価し合うコミュニティーは、「morale」(やる気)が向上する。ひとりひとりがポジティブになるからだ。
「すばらしい!!」「いいアイデアだ!!」「うまい!!」「ステキだ!!」「それ、いいよ!!」「よくやった!!」「上手だね!!」「なるほど!!」「かっこいい!!」──言ったほうも言われたほうも、気持ちがいい。ショウ・アンド・テルは、そのようなポジティブな雰囲気をクラスの中に醸成するメソッドのひとつなのだ。
プラスを評価するコミュニケーションに必要なことは3つある。(1)相手のプラスを見つける、(2)それをほめる語彙を豊富に持つ、(3)絶妙なタイミングでほめる。ショウ・アンド・テルにはそのすべてが凝縮されている。
(次ページに続く)
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