日本電信電話(株)(NTT)と大阪大学が、テレポーテーション型量子計算の実証に世界で初めて成功したのだそうです。
量子力学の原理で超並列演算処理を可能とするとされ、登場が待望されている「量子コンピュータ」ですが、現状では、さまざまな課題があるために実現困難な状態と言わざるを得ません。量子を使って演算するキモである「量子ゲート素子」の具現化がその課題の1つなのですが、その量子ゲート素子を構成する「制御NOTゲート」の開発が特に困難とされています。
この制御NOTゲートの実現にテレポーテーション型量子計算が有効である、ということは理論上すでに確立していたのですが、具体的な証明がなされていない状態でした。今回、その実証に成功したことによって、量子コンピュータの実現へ新たな突破口が開かれたかっこうです。
この実証では、4つの光子を使って特殊な「量子もつれ」を生成し、その量子もつれを利用して別の場所へ量子テレポーテーションを行なったところ、制御NOTゲートによる出力が確認されました。そしてこの実験結果を計測して評価すると、この量子もつれと電子テレポーテーションが演算に貢献していることを証明するに足る数値が得られた、というわけです。
ちなみに、テレポーテーションというと、最近では米テレビドラマ「HEROS」のヒロ・ナカムラを、また編集部員Aのように往年の名SF「地球へ」(最近もやってましたが)なんかを連想するかもしれません。が、そんな超能力のテレポーテーション(瞬間移動)とは違って、量子テレポーテーションとは、量子もつれの関係にある2つの量子間の“情報”が瞬間的に伝達する現象、とされています。物体が物理的に移動するわけではありませんので誤解なきよう。
なお、この実証はNTTの情報流通プラットホーム研究所 岡本特別研究室の徳永裕己研究員と大阪大学 井本信之教授グループの共同研究で得られたもので、米国科学誌「Physical Review Letters」の電子版(5月27日付)に掲載されます。
大阪大学 井本信之教授は「今後はこの手法をより発展させてより大規模の量子もつれを生成し、単一の量子ゲートのみならず、量子ゲートを組み合わせた“量子アルゴリズム”“量子プロトコル”の実現に向けて研究に取り組む」と抱負を述べました。
実現すれば暗号通信技術も飛躍的に進歩するとされ、その無限の可能性から「夢のコンピュータ」とも言われる量子コンピュータですが、夢ではなくなる日もそれほど遠くないのかもしれません。