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トヨザキ社長のモテ本100本ノック 第2回

男としてのスキルを磨く

今月はジョナサン・キャロルでモテる

2008年05月30日 10時00分更新

文● 豊崎由美

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 さてさて、その後、1920年代から30年代にかけて大勢の有名人の愛人だった女偉丈夫フランシスの知己を得たミランダは、彼女から譲り受けた家でヒューと暮らし始めます。と、こんな紹介の仕方をすると、よくある恋愛小説のように思えるかもしれませんが、キャロルはそんな一筋縄な作家じゃありません。ミランダはジェームズ(覚えてますか? 高校時代の彼氏ですよ)の幽霊と遭遇したり、新居で幻を見たりするんです。で、ですね、フツーの恋愛小説めいた物語の中に超常現象を巧みに織り込みながら、第1部はありえない、というか「あってほしくない」出来事によって唐突に幕を下ろすんです。

 キャロルの小説ではおうおうにして死んでほしくないキャラが命を落とし、子どもは時に無邪気な天使どころか邪悪な存在として悪意を放ち、主人公は決して善男善女ではなく、たとえそう見えてもいずれは化けの皮をはがされ、物語の展開はいちいち読者の期待を裏切り、日常はふいにいつもののどかな表情を失い、突然こちらに牙をむいてきます。つまり、まったくもって油断ならないのです。そんな予定調和の正反対をいく作風が、一度読んだら癖になると思し召せ。ヒューから女たらしの極意も学べるし、これって一石二鳥のお得な小説なんですのー。

*<>内は引用箇所を表しています

■社長の箴言

女子の身になれ、照れず、臆せず。

豊崎由実(Yumi Toyozaki)

1961年生まれのライター。「本の雑誌」「GNIZA」などの雑誌で、書評を中心に連載を持つ。共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(PARCO出版)と『百年の誤読』(ぴあ)、書評集『そんなに読んで、どうするの?』『どれだけ読めば、気がすむの?』(アスペクト)などがある。趣味は競馬。

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