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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第16回

iPodに課金する文化庁の倒錯した論理

2008年05月13日 08時00分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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「どんぶり勘定」の補償金は創作のインセンティブにならない


 その経済的被害の根拠は、文化庁が「すでに合意を得た」と称する1月17日の中間整理(関連リンク)の110〜113ページにほんの少しだけ書かれている文章で、その内容は「権利者の許諾を得て行われる事業に与えた経済的損失とする考え方もある」と両論併記だ。ところが文化庁は、これだけの根拠から一挙に「新たに補償金を取る」という結論に飛躍する。

 では、この補償金はクリエイターに還元され、その創作活動に役立っているのだろうか。補償金は機材や媒体から一定率で徴収され、録音についてはJASRAC、実演家団体協議会、レコード協会にほぼ3分の1ずつ分配されるが、その使途の詳細は不明だ。どんな曲がコピーされたかに関係なく、一括して「どんぶり勘定」で取る補償金は権利者に正確に分配できないので、大部分はこうした団体の運営費に使われている。つまり補償金は創作のインセンティブを高める役には立たないのである。



文化庁の官僚は著作権法を読み直せ


 そもそも著作権法は、著作者のためにあるのではない。その第1条に書かれているとおり、それは「文化の発展に寄与することを目的とする」法律であり、「著作者等の権利の保護」はその手段の一つにすぎない。ところが文化庁の官僚の脳内では、この目的と手段が倒錯し、著作者の権利(あるいはJASRACなどに天下る彼らの既得権)を守るために、文化の発展を妨害する法律を作ってきた。

 制度の改正にあたって基準とすべきなのは、それが文化の発展に寄与し、消費者の利益になるかどうかという著作権法の精神である。権利保護はその手段に過ぎないのだから、彼らの被害よりも消費者の利益のほうが大きければ、被害を補償する必要はない。

 そして私的録音の経済的被害は不明だが、iPodはPodcastingなどのイノベーションによって、新たなクリエイターを生み出している。文化に寄与しているのがどっちかは明らかだろう。文化庁の官僚諸氏は、著作権法を最初から読み直してはどうだろうか。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。


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